川口市内の芝や前川、神根などの特定地域では、トルコ国籍の少数民族クルド人と見受けられる一部外国人による迷惑行為や法令違反、外国人同士の争乱や地元住民との軋轢などが表面化しており、市民の不安と不満が大きくなっています。
私のもとにも、一部外国人による公共施設やコンビニ近くでの煙草の投げ捨て、ゴミの散乱、夜遅くの喧噪などのマナー・ルール違反が顕著となっており、さらに無免許運転・トラック過積載、児童労働、不法就労という法令違反も見受けられるとして、警察や行政当局による取り締まりの強化を訴える声が数年にわたり強く寄せられてきました。
特に2023年7月に、川口医療センターの敷地内及び周辺に100人近くの外国人が集結した騒動が全国的なニュースとなり、いわゆるクルド人問題についての一刻も早い事態の収拾と抜本的な解決を求める声は高まるばかりです。
今号では、いわゆるクルド人問題がなぜ発生したのかという経緯と、不法滞在・不法就労外国人への対策が抜本強化された改正入管法が施行されたことを踏まえ、その内容と効果を説明します。こうした法改正による対策強化に加え、そもそも不法滞在・不法就労外国人問題を発生させないために政府が進めている一連の体制整備について、これまで私が進めてきた取り組みも含めご報告させていただきます。
▶2024年6月10日改正入管法が施行➡難民申請中の強制送還可能に◀
外国人材の受け入れや不法滞在などの外国人の収容・送還のためのルールを定めた「出入国管理及び難民認定法」(入管法)が2023年6月に改正され、本年6月10日より施行されました。
難民申請中は強制送還を一律に停止する規定に例外を設け、3回目以降の申請者は強制送還を可能とすることが主な改正内容です。
従来の難民認定の申請回数には上限がなく、国外退去を回避する目的で何度も申請を申し立てる乱用事例が不法就労目的の外国人を増長し、結果的に不法就労のみならず違法・迷惑行為など住民不安をもたらす元凶になっていると指摘されてきました。
6月10日以降は、難民認定申請の回数を2回までとし、3回目以降の申請者は難民と認定すべき「相当の理由」が明確に示されない限り送還可能となりました。
併せて、入管施設への収容にかわる「監理措置」制度が新たに設けられ、裁判手続などで速やかな送還が困難となった場合に、家族・親族や支援者など「監理人」による監督のもと、対象者を収容施設外で生活させながら退去手続を進めることになります。
6月の法施行以来、さっそく効果が現れはじめており、在留外国人の法令順守意識の向上や、地域コミュニティへの配慮のほか、日本での稼働をあきらめて自発的に国外退去する人も出始めました。
トルコ国籍で昨年中に難民申請を行った2,400人余りのうちの3割が既に出国済みという情報もあります。加えて、入管当局の説得に応じず難民申請を繰り返し頑として滞在継続を申し述べる者を強制的に送還するための体制が強化されており、着々と進められている旨の報告に接しています。
▶改正入管法「ルールに違反したものに厳正に対処」「共生社会を実現」◀
小泉龍司法務大臣は、入管法の施行を受けた記者会見で、「ルールに違反したものに厳正に対処すると同時に、保護すべきものを保護し、共生社会を実現する」ことを強調した上で、法執行にあたってはその趣旨が生かされるようにすると述べました。これこそが、国が行う出入国・在留管理行政の要諦であると私も考えます。
▶トルコ国籍の外国人が増加した背景➡ビザなし渡航の悪用◀
そもそも我が国にトルコ国籍の外国人が増加している背景として、1956年に同国との間で短期間訪問の査証(ビザ)を不要とする取り決めが交わされたことがあげられます。
1990年代になって、分離独立を求めるクルド人組織とトルコ政府との対立が激しくなった時期に、観光目的で日本に上陸し、その後に「母国に帰国すれば迫害される」と訴えて日本に難民としての保護を求めてくる人が現れるようになりました。ところが、こうした紛争が沈静化するとともに武装集団の首謀者が捕まり、平穏な日常生活が戻った今になっても同様の主張が繰り返されています。
トルコ国籍者は、なにもブローカー(密航あっせん業者)に頼らなくとも、航空券代さえ負担できればパスポート一つで来日し、3か月の短期滞在資格で日本に入ることが出来ます。3か月以内に難民申請をして日本に留まることを試みる、ビザなし渡航の「特権」を悪用する人が増えています。
最近の約15年間で日本に難民申請したトルコ国籍の人は9,700人以上、その多くはクルド人ですが、クルド人として難民認定されたのは裁判
で国側が敗訴した1人だけです。難民に認定されなかったものの、日本人と結婚して子どもが生まれるなど、特別な事情を考慮した人道的な見地から在留が認められたトルコ国籍者は、最近5年間で58人程度というのが実情です。
これまでの制度では、日本への難民認定申請は回数制限がなく、何度でも行うことが可能でした。
1回の難民認定の審査期間は平均2年2か月程度であり、中には6回も7回も申請を繰り返しながら20年近く生活を続けているケースも発生しています。
我が国の観光立国の一環としてのビザの免除や発給緩和の措置、外国から我が国に庇護を求めてきた人々を保護するための仕組みを意図的に悪用したり、本来の目的を誤認し、実際には出稼ぎや定住を目的として、日本国内に居住している親族、友人などのツテを頼りその支援を得ながら呼び寄せられる人々が少なからず存在しているというのが、今日に至る外国人問題の実情の一端となっています。
▶「仮放免」の実態と問題点◀
日本に上陸後、在留期限内に難民認定の申請をすれば、申請手続き中は正規在留者として住民基本台帳に登録され、初回の難民申請手続き中は合法的に働くことも可能です。
一方で、1回目の難民申請が認められず、その後在留資格を喪失して国外退去が確定した外国人は、原則として国外退去まで入管施設に収容されることになっています。(左ページ図-1参照下さい)
その時点以降ではもう就労は認められないのです。
問題は、こうした外国人が、病気や子どもの養育、あるいは複数回の難民申請、行政訴訟の提起などの理由により、改正法施行前の時期に「仮放免」が許可されて、入管施設外で生活するようになり、不法滞在状態でありながら街の中に存在する外国人が増加しているということです。
我が国に在留するトルコ国籍者は約6,000人。そのうち約2,000人程度の大半についてクルド人とみられるトルコ国籍者が川口市周辺に集住しています。
観光ビザで来日しその期限が切れるまでに難民申請を行った外国人には難民申請中であることを理由とした「特定活動」という在留資格が与えられており、川口市内にはこうした「特定活動」を中心とするトルコ国籍の正規在留者が約1,300人在住しています。
ところがこのほかにも不法滞在状態の仮放免者がおり、その数は700人程度となっています。この人たちの大半は、複数回目の難民申請を行い、送還のメドが立たないために入管施設への収容を一時的に解かれているものです。
仮放免者に対しては、国の制度により就労や健康保険への加入を認めていません(=国外への退去手続き中で住民基本台帳にも登録されていないため)。しかし、実態は生活の糧を得るために大半の仮放免者が不法就労状態で働いていると言われています。
医療費は社会保険が利かないため本人10割負担であり、そのために病院で満足に治療を受けられず、生活や健康に支障をきたしているといった、人道的見地からの問題を指摘する声もあります。
川口市においても、医療保険を持たない外国人が医療センターで診療を受け未納となった医療費が約1億2900万円程度となっており、その内訳には仮放免者による未納も一定数含まれていると推測されています。
▶川口の実態をもとに、法務省、出入国在留管理庁(入管庁)と協議◀
川口市内のクルド人と見受けられる一部外国人による問題行動が表面化し、市民から寄せられた不安の声をうけ、私は制度改正に向け、政府関係部署との度重なる協議を進めてまいりました。
歴代法務大臣はもとより、入管庁が発足する2019年4月以前の法務省入管局時代から、幾度にもわたり幹部職員との打ち合わせを行い、政府部内での政策決定に深く関わってまいりました。
さらに、奥ノ木信夫川口市長による歴代法務大臣への要望活動や、入管庁幹部と自民党川口議員団(県議会議員・市議会議員)との意見交換会を度々開催し、国から現行制度と法改正に向けた状況説明を受けるとともに、市議団よりは川口市の外国人問題の実情を訴える場としました。
国と自治体・地域が情報を共有し、共に対応策を協議することはとても有意義であり、具体的な改善や新たなルールを今回の法改正と運用に加えることができました。その一端をご紹介します。
〇これまでの制度では、仮放免者の許可状況を国は自治体に積極的に連絡できることになっておらず、自治体側は不法滞在状態の外国人居住実態を把握できない仕組みになっていたことが明らかになりました。地域では、どの外国人が不法滞在状態なのか、分かりようがなかったのです。
➡私より政府に提案し、仮放免者に関する基本情報を地方自治体からの照会があれば回答できるよう、入管庁における運用の見直しが行われました。
〇自身の在留状態を示すべき仮放免許可書は、携帯義務及び提示要求に関する対応があいまいで、A4判の紙製では携帯に不便であり、本人確認に支障をきたすなど、運用面の課題も浮かびました。
➡私より在留カードのように常時携行でき、求めに応じて提示できるようにするべきと提案し、今般の入管法改正で、許可書などの携帯が新たに義務化されることになりました。併せて様式を見直し、丈夫な厚紙を使いカードタイプの小型化を図ることで携帯が容易な仕様となりました。
こうした、現場の声を踏まえた「川口発」のアイデアが、国の制度・運用に反映されているのです。
▶経済財政担当大臣として、骨太の方針2024に「選ばれる日本へ・外国人材の受け入れ、共生のための総合的対応策」をとりまとめる◀
私が取りまとめ責任者となった「骨太の方針2024」では、少子高齢化、人口減少社会となる日本の明るい未来に向けた政策の大きな柱として、「外国人材の受け入れと共生」をさらに充実させることとしました。
政府においては「選ばれる日本へ」をミッションに、外国人にとっても魅力的な社会、就労制度、日本語教育の充実・強化、地域コミュニティにおける交流と相互理解の促進など、外国人材の受入れや共生に関する総合的対応策やロードマップを策定しています。
・入管DXの一環として円滑・厳格な審査を実現するための電子渡航認証制度(日本版ESTA)導入の準備
・外国人送還忌避問題に対応する多角的な送還手法による体制強化
・マイナンバーカードと在留カードの一体化
・認定日本語教育機関の体制整備
・地域の事情に応じた日本語教育体制の整備
・育成就労制度の要件具体化(令和6年入管法改正済み)
・特定技能制度の適正化、受け入れ企業と地方公共団体との連携強化
・最低賃金及び同一労働同一賃金順守の徹底、適正な労働環境の整備
▶出入国管理制度は法治国家の根幹◀
骨太に掲げた「外国人の受け入れと共生」を推進する上での大前提は、厳正な在留管理がなされていることです。
国籍条項、外国人の出入国・在留管理に係る行政執行は、法治国家として基本中の基本であり、ここがルーズであったり適正な執行が出来ていないということは、不法移民問題や大量難民流入問題に苦悩する欧米諸国の例を持ち出すまでもなく、我が国社会の構成員である国民からの根本的な信頼が揺らぐことにもつながりかねません。
この問題を解決するため、不法滞在・不法就労の当事者を徹底的に排除する入国審査などの水際作戦を充実させると共に、我が国の在留外国人制度全般をより良い姿に整備することを通じて、問題そのものが発生しないよう国境管理を堅固な環境に整えることが重要と考えています。
国家運営の基本である出入国管理を適切に機能させ、不法滞在・不法就労への厳然たる対応がなされるよう、政府においては法に基づいた具体的な準備が進んでいます。
▶「選ばれるまち・川口」➡多文化共生社会に向けた政策を展開◀
私たちのまち川口においても、多言語(21言語)による土日を含めての相談窓口、情報誌の配布、日本語教室、在留外国人向け法律相談、防犯情報の提供など充実したメニューを準備し、これまでの外国人住民への対応実績を基に、多文化共生社会に向けた先駆的な取組みが進められています。
併せて、今回の法改正による新たな出入国管理の枠組みにより、秩序に反する外国人は速やかに国外へ退去させ、ルールを守り真に必要とされる外国人材の積極的な受け入れが推進されていきます。
私も、国籍を問わず地域の発展のため、共にルールを守り互いを尊重しながら理解・協力しあえる「日本一の共生のまち・川口」を作り上げるため、引き続きしっかりと取り組んでまいります。