4月16日(木)私が委員長を務める党の経済好循環実現委員会を開催し、ICT農業・ロボット分野の野口伸 北海道大学大学院農学研究院教授と予防医療・健康産業分野の山本雄士(株)ミナケア代表取締役をお招きして第7回有識者ヒアリングを行いました。
◎野口伸 北大教授からは、「ICT×ロボットによる新しい農業の姿」と題して次のようなお話しをいただきました。
<総論>
・日本農業の課題は、①農業生産の深刻な労働力不足。=基幹的農業従事者は2014年168万人、5年間で23万人減。平均年齢66.5歳。新規就農者も減少の一途で2013年約5万人と5年間で1万人減。②農業を基幹産業としている地方経済の疲弊と人口減。=耕作放棄地が40万haに増加。原因は高齢化と労働力不足。地域の営農環境・生活環境に悪影響。 ・今年1月23日、政府のロボット革命実現会議で「ロボット新戦略」を決定。トラクター等農業機械に自動走行システム等を活用し作業の自動化を行い、これまでにない大規模・低コスト生産を実現。アシストスーツや除草ロボット等を活用し重労働を機械化・自動化。高度環境制御システム及び傷害果判別ロボット等の普及、ビッグデータ解析により省力・髙品質生産を実現。など。
・農業分野では①2020年までに自動走行トラクターの現場実装を実現する②2020年までに農林水産業・食品産業分野で省力化などに貢献する新たなロボットを20機種以上導入する。
<重点分野―農業機械・準天頂衛星・G空間情報・ICT等―での取り組み>
・「トラクターなどの農業機械」は、米国のGPS衛星・「日本の準天頂衛星」からの信号を受信し、電子地図化した圃場で夜間・複数同時・自動走行するなどこれまでの作業能力の限界を打破して大規模・低コスト生産を実現する。
・新藤総務大臣がG空間×ICT共同プロジェクトの国際展開でオーストラリアとの2国間協力に合意。同国で「ICT・スマート農業」に準天頂衛星を活用する無人トラクター走行実験を行い、誤差が5cmと人間以上の走行精度を実証している。生育した作物を傷つけることもなく安全性も高い。
今後北海道岩見沢市において110名の農家集団の下で大規模実証実験を推進。実用化まで2~3年の技術。
・走行精度の向上・安定化の為、「日本の準天頂衛星」を現在1機から2018年度までに4機、2023年度までに7機体制にする。
・トラクターは耕うん・代かき・田植え・施肥・播種・除草・農薬散布・収穫作業が可能。価格は300万円程度に。
・「G空間情報センター」は、GPS衛星・準天頂衛星により正確な電子地図を作成し、その地図上に各種衛星・機器などによって蓄積された画像、観測データをはじめ広範なG 空間情報を収集し配信する。
・「ICT活用」分野では、これまでに蓄積した農業環境情報はじめ気象情報、作物栽培・収穫予測情報、土壌管理情報、病害虫情報、流通・販売情報などのデータを解析・配信する「農業環境情報システム」と「先端農業支援システム」によって農家の営農作業計画作成・実施を支援する。これにより、プロ農家の営農ノウハウを継承・活用する。「定時」「定量」「定質」の生産管理にはICTが必須。
・収穫物の積み下ろしなどの重労働をアシストスーツで軽労化。除草ロボット、畜舎洗浄ロボット、養殖網・船底洗浄ロボット、弁当盛りつけロボットなどがきつい作業・危険な作業・繰り返し作業からひとを解放する。
・作物の水分・栄養状態などを解析するセンシング技術や過去のデータに基づくきめ細やかな栽培(精密農業)により、作物のポテンシャルを最大限に引き出して多収穫・高品質を実現する。
・労働力不足、高コスト、地域経済の疲弊を農業のICT化により克服。プロ農家の「匠の技」を承継発展、農業の魅力向上、新規就農促進、生産効率化・6次産業化を推進、強い農業を実現して地域を創生する。
<ICT×ロボット農業推進に重要な施策>
・地球観測衛星の撮像頻度の向上(1日1回以上)。
・道路交通法(農機の隣地への移動不可など)や電波法の規制緩和。
・ロボット農機、ドローンの安全ガイドライン設定。
・農業情報・用語の共通化・標準化。
◎(株)ミナケアの山本雄士代表取締役からは、「成長産業としてのヘルスケアとその課題」と題して次のようなお話を伺いました。
<総論>
・増大する医療業務は産業なのか、コストなのか。日本の医療費は毎年2.5%の伸び(=産業なら成長)。
・根拠のない医療を提供するなどの「過剰使用」、必要な医療を充分提供しない「過小使用」、不適切な医療を提供する「誤用」など現状で「やっている医療」を「やるべき医療」に改善することにより、医療コストを下げつつ質の向上は可能。
・このためには、医療・ヘルスケアの役割を再定義し、ポテンシャルを最大限引き出すイノベーションを起こすこと。その推進力となる産業の振興・成長も必要。
・医療は、「技術を開発」→「その技術を医療として提供・普及」→「課題を次なる開発へ」というサイクルで発展する。
・大きな意味で医療の役割は「医療の成果として得られる人々の健康によって、人や社会の成長に貢献する」こと。
・医療は受益者と提供者の2者間ではなく、支払者(医療保険者・自治体・企業)が介在する。技術開発は研究機関や製薬企業が担う。これらプレイヤー間のパワーバランスは政府が調整する。
<医療提供>
・医療サービスの価値は予防から終末期までの間に「健康を長く保つこと」。
・わが国での医療提供のケア・サイクルは予防→検診→診断→治療→慢性期管理→介護→終末期となる。
・その各段階での実施機関等は予防・検診事業者、医療機関、介護施設、在宅などバラバラ。
・保険での対応は、診断・治療・慢性期管理・終末期は保険給付、予防・検診・慢性期管理は保険事業費、介護は介護給付となっている。
・これからの医療に必要なパラダイムシフトは、「非日常」から「日常」、「治療」から「ケア」、「コスト」から「投資」。
・医療(保険内)は病院で、ヘルスケア(保険外)は生活で、という発想で産業を考える。
・病気にさせないケア・前倒しできるケアとは何か、からサービスの付加価値を定義する。
・医療との連携つながりを担保するため必要な最低限の説明責任、正統性をどう確保するかを考える。
・複雑化した診療には、20年後でも変わらない「人」「健康」の価値を軸とした様々なイノベーションが必要。①より手元で、手軽に、手ごろな価格での保険医療、②時代に即し、今求められている医療の創造(医療戦略)③変革を誘発する仕組み・制度の構築など。
・ケア間の連携、ベストアクセスにより健康アウトカムの向上を得られる。
①誰がアクセスやケア・プロセスのナビゲータ役なのか、②誰がアウトカムの監査役なのか、③誰が誰に、どのような情報を、どう伝達するか、をシステムとして確立すれば回避可能な疾患、管理可能なコストによる改善の余地は大きい。
<技術開発>
・技術開発は新たな医療を実現し、社会が成長するドライバーとして今後も重要。
・臨床研究の国際競争力は劣る。新規技術導入は欧米に3~4年遅れ,売り上げ上位品目の1割に届かず。サービスそのものの開発を軽視している。医療機関へのアクセス担保だけでは医療の本来の力は発揮できない。などの課題がある。
・高齢者が転ばない靴、膝の痛みを忘れるスリッパへの投資。健康維持のため地下鉄乗車前にスクワット20回で料金無料にするウクライナでの例もある。
・既存システムの延命ではなく、新規アイデアに賭ける余裕を確保できるか。
・技術イノベーション+制度・仕組みのイノベーションで初めて社会実装につながる。新規技術に対応する法整備上の課題を抽出。今の時代に必要なコンセプトリーダーを見つけにいき、投資してみる必要がある。
以上が概要です。
よろしければ資料をご覧下さい。
-配付資料-
○野口 伸 北海道大学大学院農学研究院教授 「ICT×ロボットによる新しい農業の姿」資料1
○野口 伸 北海道大学大学院農学研究院教授 「ICT×ロボットによる新しい農業の姿」資料2
○山本 雄士 (株)ミナケア代表取締役 「成長産業としてのヘルスケアとその課題」