週刊新藤第239号 日本経済の構造転換は待ったなし〜経常収支と国家財政から見た危機~

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日本の貿易収支が31年振りに赤字となりました。日本経済運営の構造転換は待ったなしです。そのためには何が必要か、ご一緒に考えてみたいと思います。


◆ 貿易収支が31年ぶりの赤字に

 昨年の日本の貿易収支が、第 2 次石油危機以来、31年ぶりに赤字となりました。
 これはモノの輸出で経済を発展させてきた日本の成長パターンが、歴史的な構造変化の時期を迎えていることを意味しています。


◆ 海外との取引状況を示す経常収支

 海外とのお金のやりとりを示す経済指標を経常収支といいます。
我が国は輸入額よりも輸出額が多い「経常黒字国」です。
{財務省統計2011年 1 ?12月までの経常収支は 9 兆6289億円の黒字}
①貿易収支
      1 兆6089億円の赤字
=モノの輸出入の集計
②サービス収支
      1 兆6407億円の赤字
=日本人が海外旅行をしたり、その先でする買い物や食事の額の集計
③所得収支
     14兆0296億円の黒字
=日本企業が外国で得た収益から外国企業が日本国内で得た収益を引いた額
④経常移転収支
      1 兆1510億円の赤字
=開発途上国への経済援助や国際機関への拠出金の額
 経常収支は、これら四つの収支を合わせたものです。


◆ 貿易収支はエネルギー政策が影響

 今回の貿易赤字の主な原因は、欧州の金融危機や円高と東日本大震災による輸出の急ブレーキと、原子力発電所の停止に伴う火力発電所向けの燃料輸入の急増が挙げられます。
 脱原発を掲げ、その後の方針を示せない民主党政権の稚拙なエネルギー政策のしわ寄せがここにも表れているのです。
 ちなみに、1980年の貿易赤字もオイルショックが原因であり、貿易収支にはエネルギー需給が大きく影響していることが分かります。


◆ 貿易収支は構造的に赤字定着の恐れ

 日本の経常収支は貿易黒字により大きな黒字を生み出してきました。
 ところが、自動車や家電の輸出で黒字を稼いでいたのは過去の話となり、自動車は生産を海外に移し、日本への逆輸入を本格化しておりますし、家電は既に 2 年前より純輸入国になっています。
 そして、貿易収支の黒字幅は縮小し、海外からの配当金などによる所得収支の黒字は、2005年から貿易黒字を上回っているのです。
 主要産業が輸出で利益を生み出せなくなった今後の日本経済は、構造的に貿易収支の赤字が定着する恐れがあります。


◆ 所得収支の黒字縮小が続く

 また、所得収支は海外投資が膨らみ、外債や海外株式からの利子や配当増により黒字となっておりますが、リーマンショック以降の世界的な金利低下を受け、黒字額はピークより 3 割近く縮小しています。
 海外メディアは日本の貿易赤字を大きく取り上げ、貿易赤字が続けばやがて経常赤字に転落する可能性があるとの指摘もありました。


◆ 経常収支の赤字化は国債の金利上昇

 そこで問題になってくるのが政府が発行する国債の消化です。
 経常黒字の現在は、海外で稼いだお金が国内に余っている状態であり、政府が巨額の国債を発行しても資金は国内で賄えます。
 ところが経常赤字になると、国内だけではお金が足りず、国債という政府借金を海外投資家に依存するようになります。
 経常赤字に陥ったギリシャは国債利回りが急上昇し資金調達難に陥っていますが、その原因は海外頼みの資金調達によるものです。
 日本も海外投資家への依存度が高まれば、現在低く抑えられている国債の利回り=長期金利が上昇するリスクが高まる可能性があるのです。


◆ 政府の年間国債発行は、573兆円!

 政府の年間の国債発行額は44兆円といわれますが、これはあくまで新規財源としての国債発行額です。
 政府はこの他に、特殊法人等の運用財源に充てる「財投債」、満期が来た国債を借り換えるための「借換債」、震災の復興費に充てる「復興債」を発行しており、これらを合わせた国債の発行総額は、平成23年度で181.5兆円、24年度は174.2兆円にものぼるのです。
 さらに、円高を抑制するために行う市場介入資金などの「政府短期証券」の発行を含めると、我が国の国債発行総額は平成24年度でなんと年間573兆円となります。
 財務省理財局は国債の入札を毎日のように行っており、1 週間に約 2兆円の国債を発行し、市中の金融機関や保険・証券会社がそれを引き受けているのです。


◆ 利払い費の増大で財政破綻の可能性

 現在日本の長期金利は 1 %前後であり、約 7 %のフランス・イタリア、約 2 %のアメリカ・ドイツ等、他の先進国と比較しても低い水準で安定しています。
 仮に日本が経常赤字となり、信用不安から国債金利が米国並みに 2 %=今の 2 倍になるならば、政府の金利支払いは当然 2 倍になります。
 巨額の国債発行は巨額の国債償還を発生させ、これが国の財政赤字を更に強烈に悪化させることは容易に想像できます。そうなれば、今いわれている消費税の増税程度では何の役にも立ちません。
 こうした危険な状況をはらみながら、バラマキを止めず、経済を成長させられずに、増税にのめり込もうとしている民主党政権にこの国の舵取りを任せられるのでしょうか?


◆ 経済成長の鍵は信頼される政府

 日本経済のリスクを下げるためには一刻も早く財政再建を実現することです。それは現政権が取り組む歳出カットと増税のみでは決して成し遂げられません。
 経済は生き物であり、市場の信頼は理論的数値では設定しきれず、将来への期待や雰囲気、安心等が左右するということをエコノミストから聞かされたことがあります。
 まずは一刻も早く政治をリセットし、国民は信頼出来る政権を再選択するべきです。国民によって選ばれた実務能力を備えた新政権が、日本を建て直すビジョンと経済戦略を打ち出し、必要な政策を実行していくならば、日本は驚くべき早さで復興できる、と私は信じています。


◆ 自民党の衆院選経済分野公約・素案

 自民党は次期総選挙の経済・財政・金融分野の公約素案として、
「デフレからの早期脱却」
「貿易立国から投資立国への大転換」
「円高を利用した海外投資の促進」
「科学技術など成長産業分野への税・財政支援の集中投入」
「安心社会実現に向けた税制抜本改革と財源の重点的、効率的配分」
「東日本大震災の復興、除染事業を日本経済の起爆剤として民需主導で実施」を打ち出しました。
 さらに、名目成長率の目標を 4 %に設定し、雇用の創出と持続的成長を実現するための成長戦略を強化・加速することや、日銀法改正などによる金融緩和措置の実効性を高める政策を盛り込んでいます。


◆ 日本経済の構造転換は待ったなし

 我が国は、戦後の輸出立国路線からの構造転換は待ったなしです。
 海外への直接投資や、円高を活用した合併・買収で世界に打って出ると共に、国内の付加価値が高い事業の育成に集中すべきです。
 そして、成長センターとなるアジア地域などに日本の投資が拡大するような通商施策が必要です。
 我が国財政の安定化と更なる成長のために、我々政治が果たすべき役割は大きく、私もこの点を胸に刻み、今後も精一杯活動してまいります。



 新 藤 義 孝