週刊新藤第222号 あまりにも不安な、原発事故対策〜情報公開、体制整備、英知の結集を~

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福島第一原発の事故収束の見通しがたちません。一刻も早い現実的かつ確実な対策を打ち立てるため、厳密な事故原因の究明を行いつつ、国内外の英知の結集が求められています。


 福島第一原子力発電所の事故から2 ヶ月半が経ちましたが、未だに収束の気配が見られません。未曽有の天災ではありましたが、政府・東電の初動の遅れと、事故認識の誤りによる人災の面もあるのではないか、と私は考えています。


◆ 菅首相が現場視察を強行

 菅首相は事故直後の 3 月12日朝、原子炉格納容器が破裂して大量の放射能が放出される可能性があることを認識しながら、ヘリによる現場視察を強行しました。
 到着する直前の午前 6 時50分頃には 1 号機で全炉心溶融(メルトダウン)が起きており、国家の最高責任者が防護服も着用せず視察を強行したことは軽率の極みといえます。


◆ ベント作業の遅れ

 さらに、首相の突然の視察により現地では急きょ準備のため人員が割かれ、「ベント(格納容器内の放射性物質を含む蒸気を外部に逃す作業)」を遅らせたのではないか、と指摘されています。

 結果としてベントは午前10時17分まで行われず、水素爆発を回避させることが出来ずに多くの放射性物質を外部に放出させてしまいました。


◆ 首相激怒?による海水注入の中断

 また同じく 3 月12日午後 7 時過ぎから水素爆発後の炉心冷却のため、真水に代えて海水注入を始めましたが、途中55分間に亘り海水注入が中断されていたことも明らかになりました。
 海水注入は現場の判断で既に行われていましたが、首相が「俺は聞いていない」と激怒し、それを聞いた東電が現地作業を止めさせた、という報道もあります。
 首相官邸側はこれを否定し真相は藪の中ですが、事故後の極めて重大な時期に、政府と東電そして現地との間に、意思の疎通や連絡に不備があったことは紛れもない事実です。


◆ 2か月間もメルトダウンを認めず

 そもそも東電は「 1 号機の核燃料は損傷しているが、解け落ちていることはない」と説明してきました。
 しかし、私も参加する自民党有志による勉強会では、専門家より事故直後から全炉心溶融(メルトダウン)の可能性が指摘されており、政府・東電が発表した事故対策には当初より大きな懸念が生じておりました。
 そして事故から 2 か月以上経って、東電は1、2、3号機の炉心溶融(メルトダウン)を相次いで認めました。
 これは事故収束の工程を根本から変更させる深刻な問題です。


◆ 水漏れと高汚染で作業手つかず

  1 号機では大量の水を注入してきた圧力容器の水位が想定より大幅に低く、メルトダウンにより底部に穴が開き水が漏れていることが確実になっています。
 当初計画した、原子炉を包む格納容器を水で満たして冷却する冠水化は、水漏れ対策が出来ずに断念し、水を循環させて冷却する対策に変更せざるを得なくなりました。
 そして、原子炉建屋内の放射線量が高く作業が容易ではないことが判明しています。さらに 2 号機、3 号機は未だ人間が入れる状況になく、具体的作業は進んでいません。
 工程表が目標とする 7 月中旬までの原子炉の安定的な冷却は、砂上の計画と言うしかありません。


◆ 増え続ける汚染水との戦い

 核燃料を冷やすために、原子炉に注水せざるを得ない状況が続いていますが、それは放射能に汚染された水を大量に作ることを意味します。
 そして汚染水を除染しながら冷却していく計画を立てていますが、高濃度の汚染水は人間を死亡させる程のものであり、それを循環させる危険性を指摘する専門家もおります。
 また、水の除染処理の費用は明らかになっておりませんが、私が聞いている範囲では、何と 1 トン当たり2 億円という指摘もあります。
 現状発生している汚染水は、既に8 万 7 千トン、このまま注水を続けると12月には20万トンになる見通しが示されています。
 汚染水の処理費用だけで40兆円という途方もない金額がかかる計算になります。
 東電の 3 月期決算は、福島第一原発の廃炉費用など▲ 1 兆2000億円もの赤字計上となっています。
 今は発表されていない、被災者への賠償金支払いや、巨額の事故対策費が重なってくる現状を、現政権がどう処理するつもりなのか、全く答えを出していないのです。


◆ 人類が経験したことのない事故

 福島第一原発の事故は、日本の危機であるとともに、世界全体への危機でもあります。
 1979年の米国スリーマイル島原発事故では、1 機の原子炉が、しかも建屋が破損しない状態で事故を起こし、完全収束までに15年かかりました。
 対して今回の福島の事故は、対処せねばならない原子炉が 4 機もあり、そのうち 3 機で建屋が大きく損傷しています。
 今回の事故はこれまで人類が経験したことのないものであり、現実を厳しく認識し、まず事実を国民や国際社会に対し正確に公開することから始めなければなりません。


◆ 独立した事故調査委員会を国会に

 その上で、我々はどんなことがあっても今回の事故を収束させ、乗り越えていく覚悟を持たなければなりません。そのために一刻も早く下記について取り組むべきです。
①徹底した事故経緯・原因の究明
②事実に即した収束計画の策定
③国内外の原発施設の安全対策改善
 政府は事故調査委員会を閣議決定し政府内に設置しましたが、政府が取った行動をチェックする機関を政府内に設置して、果たして独立性のある厳密な調査となるのでしょうか。私は賛成できません。
 自民党は議員立法で「原子力事故調査委員会法案」を提出します。政府内ではなく、国会に独立性のある調査委員会を設置し、国会議員以外の委員を任命し、罰則付きの証人喚問の権限を与えるなど、徹底解明に向けた体制を構築する法案です。
 もちろんこれまで原発を進めてきた自民党の方策も検証されます。


◆ 国内外の英知を結集した体制を構築

 もう一つは、原発に関する英知を結集させることです。現在は、多くの知見を持つ専門家の方々が政府・東電に対し提言できる環境になく、またそれが出来たとしても、政府は聞く耳を持ちません。提言を受け入れれば、自分たちのやり方が誤っていたと認めることになるからです。
 私が委員長を務める衆議院の決算・行政監視委員会では、原発事故に関する集中質疑を行い、体制整備を含む議論を決議としてまとめ、政府に提言を行うことを決めました。
 ところがこの決議は、理事会で案文が合意されているにも関わらず、呆れたことに与党民主党内の手続きが進まず、予定した委員会を開催当日に流会させてしまったのです。
 一方、私が参加する超党派の原発対策国民会議では、専門家の議論の場を作るべく取り組んでおります。
 批判のための批判ではなく、この国難を乗り切るため何ができるか、という観点から、今後も精一杯活動してまいります。


 新 藤 義 孝