税制実現のためにも、国会審議の促進と充実した議論が必要です。 (衆・予算委員会分科会にて) |
国民に最も不人気な税と言われるのが相続税です。私は元々相続税廃止論者であり、制度を段階的に縮小するべく運動を行って参りました。平成13年には、自民党
住宅・土地税制ワーキングチームの一員として、個人事業主の事業用宅地について、400㎡まで相続税を80%減免する措置の実現に力を尽くしました。(約120坪までの個人商店や同族会社の事業用宅地などには、相続税はほとんどかからなくなっているのです。)
また、私が幹事長を務める鋳物産業振興議員連盟では、政府への要望として、中小企業の非公開株式に対する相続税の納税猶予制度の導入を長年に亘り、主張してきました。
今年の税制改正大綱において、長年の悲願であった事業承継税制の抜本拡充の方針決定がなされたことは、私にとっても大きな喜びであり、今号ではその内容を紹介させていただきます。
◆ 事業承継税制の抜本拡充の必要性
中小企業の事業承継問題は、地域経済の活力の維持や雇用の確保の観点から極めて重要な課題です。依然として廃業率が開業率を上回っている中で、年間29
万社の廃業のうち、後継者不在によるものが7万社、それに伴う雇用の喪失が毎年20万~35万に上ると推定されています。
多くの中小企業においては、大株主が社長として経営を行い、土地などの個人資産を会社の資産として提供しています。このため、経営者の相続の問題は、単
なる家庭内の問題ではなく、会社の事業の継続・発展に大きな影響を与えます。
また、中小企業の株式は、上場企業の株式と異なり、換金性が乏しいという特徴があります。しかしながら、株式は会社の価値を表すものとして相続税評価がな
されます。努力して業績を上げれば上げるほど、社業に専念すればするほど、自社株の価値が上がってしまい、結果として相続税負担が重くなるという不合理に
対応するためにも事業承継問題は喫緊の課題となっていました。
◆ 事業承継税制のポイント
今回の事業承継税制の抜本拡充は、雇用を支える中小企業を強力に支援することで、地域経済の発展を図るものであり、福田内閣の経済成長戦略の一環でもあります。
本制度のポイントは、
① 現行は、自社株に対して10%しか相続税が軽減されませんが、新しい制度では80%相当の納税が猶予されます。
② 納税猶予といっても、5年間、雇用を確保しつつ事業を継続し、その後、株式保有を継続すれば、最終的に納税が免除されます。
③ 中小企業基本法上の中小企業全般が対象になります。現行制度のように、株式総額20億円未満の会社だけが対象になるといった要件はありません。また、軽減対象となる株式の10億円の限度額は撤廃されます。
(但し、発行済議決権株式総数の2/3以下の限度は引き続き残ります。)
◆ 総合的な事業承継支援体制
事業承継における障害は、相続税だけではありません。後継者不足や相続に際しての遺留分の問題など様
々な課題があります。来年度に向けて、事業承継のあらゆるニーズに応える「事業承継支援センター」の全国100箇所の設置や、事業承継の資金ニーズに対応する融資制度の拡充といった総合的な支援体制を組むことにいたします。
このために、民法の遺留分に係る課題を解決するための特例や、事業承継に必要な資金の支援を行う金融支援措置を盛り込んだ「中小企業経営承継円滑化法案」を現在開会中の国会に提出いたしました。担当は私のいる経済産業省です。
◆ 適用は今年の10月以降から
最後に皆様に注意していただきたい点があります。それは、この事業承継税制の適用は今年の10月を予定しているということです。
その実現のためには、
①今国会の4月から6月までに経営承継円滑化法が経済産業委員会の議論を経て、衆・参両院で可決成立すること。この法律の施行日を10月と予定していま
す。
②非上場株式に係る相続税の軽減措置については、来年度平成21年度税制改正法案に盛り込むことになっており、一年後の今頃、国会で審議の上、法案が衆・
参両院で可決成立しなければなりません。そして平成21年の3月末頃に成立した法律を平成20年(今年)10月にさかのぼって適用することになります。
つまり、事業承継税制=中小企業の相続税の軽減は、厳密にはまだ決定していない、ということなのです。もちろん私は所管の副大臣として、この制度の実現
に全力を尽くしてまいります。
しかし、衆・参ねじれ国会では従来のように「自民党の税制大綱で決定=法案の成立」という関係は成り立っておらず、現在のような予算審議をめぐる混乱が
起こる可能性も否定できません。この制度の実現には国民の皆様の支援が絶対必要不可欠ということを是非ともご理解いただきたいと思います。
事業承継税制の適用条件は、5年間の事業継続 具体的には、①代表者であること。②雇用の8割以上を維持。 ③相続した対象株式の継続保有。 |
新 藤 義 孝 |