第146号 環境技術は日本がトップ ”カギ”を握るのは革新的技術開発



昨年、ゴア元米国副大統領とともにノーベル平和賞を受賞したパチャウリ博士と環境問題の意見交換を行いました。

 
今号では、日本の未来を拓く戦略分野としての環境問題を考えてみたいと思います。1月26日にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムに於いて、福
田総理は特別講演を行い、地球環境問題への取り組みを強化するとともに日本が昨年提案したクールアース50を推進するための具体的な3つの提案をしまし
た。


-ダボス会議での提案-
◆ ①ポスト京都議定書について

 温室効果ガスを2050年に現在の半分にするための方策について、世界各国に検討を要請。その実現のため、主要排出国の全ての国が参加する仕組みづくりや公平な目標設定に取り組むべき。


◆ ②国際協力の推進

 世界全体でエネルギー効率を2020年までに30%改善することを共有目標とする。
排出削減と経済成長の両立を図り、気候の安定に貢献しようとする途上国に対して、約1兆1000億円規模の資金メカニズムを日本が構築する用意がある。


◆ ③低炭素社会への転換に向けた革新的技術開発の推進

 CO2の排出を抑え、気候変動問題を克服するためには、今のような省エネ努力だけでは十分でなく、革新的技術開発が必要。日本は5年間で約3兆円の技術開発予算を投入しイノベーションの推進を図る。



◆ 日本の環境技術は世界トップ水準

 日本は、過去30年間、産業部門のエネルギー消費量を増やすことなく、実質GDPを2倍にすることに成功した結果、今や省エネ水準が世界トップレベルで
あり、世界を圧倒的にリードしています。
ダボス会議において、日本は、「クールアース推進構想」を提示し、自らの経験を生かし、優れた環境関連技術をより多くの国に移転していくという決意を表明
しました。
 さて、皆さんは、気候変動問題への対応と経済成長とは対立するものだと考えてはいませんか。実際には、その逆です。気候変動問題は世界経済に大きな影響
を与え、世界の将来を左右します。しかし、他方で、大いなるビジネスチャンスでもあるのです。考えてみれば、気候変動の危機が叫ばれるに連れて、各国の予
算が最優先でこの分野に使用されることになります。これはすさまじい規模の経済効果をもたらすことを意味するのです。
 環境と経済成長は相反するものではなく共生させていくもの、と考えを転換するべきです。言い換えれば、環境への配慮が自ずと企業の繁栄に繋がる、という
経済社会の仕組みを作り世界各国とともに進めるべきです。



◆ “カギ”を握るのは革新的技術開発

 日本は言葉だけではなく、この世界を変えるイノベーションに本気で取り組み始めました。
 私が副大臣を務める経済産業省においても、革新的技術開発を国家の最優先課題と位置づけ、平成20年度予算では、新規で630億円もの予算を要求し、具
体的なプロジェクトを計画しています。
 例えば、石炭火力発電所からのCO2を地中に埋め込むことにより、排出量をゼロにする技術や、世界中の屋根に取り付け可能な低コストで高効率の大陽光発
電技術、更には、水素で走る燃料電池自動車や植物から燃料を作るバイオ燃料技術、極めつけは、これまでコークス(炭素)を使っていた製鉄プロセスに水素を
使うことにより、CO2の排出を抑え、代わりに水を発生させるという革新的製鉄プロセスです。
 こうした技術の中には、将来、鋳物や機械など地元の産業でも使われるようになるかもしれないものもあり、皆さんにも大いに注目をしていただきたいと思い
ます。
 このプロジェクトは、10年間で1兆円を投入する大規模なものですが、この技術開発が成功すれば、我が国は環境分野において世界の主導権を握ることにな
ります。



◆ 洞爺湖サミットの戦略性

 2050年までの温室効果ガス排出量の半減に向けて革新的技術の開発を提唱した「クールアース50」は、単に気候変動問題を解決することを目指すのみな
らず、強い日本経済を実現するための戦略的な提案でもあったのです。
 京都議定書後の新たな国際的枠組みのあり方については、国連の場で2009年末までに一定の結論を出すことになっており、今年はその中身を議論するため
の重要な年です。我が国が議長国をつとめる洞爺湖サミットは、これまで述べたような日本の考えを世界に発する絶好の機会の場。洞爺湖サミットの大切さを皆
さんにも是非ご理解いただきたいと思います。



◆ 環境技術の革新を中小企業に

 2月4日は、私は1泊3日の強行軍でインドへ出張いたしました。ニューデリーで開催された日・印エネルギーフォーラムに参加し、省エネや新エネなど環境
に関する技術協力の可能性について協議して参りました。
 日本側は政府機関及び民間企業合わせて約50名が参加し具体的な議論が行われました。日・印間でビジネスが成立すれば、日本の製造業に発注が増えること
になります。その経済効果は、海外と直接取引を行う大企業だけでなく、高い技術力を持った中小企業にまで及ぶことも忘れてはなりません。
 環境技術の革新により私達の暮らしの安心を創るとともに、身近な中小企業に新たな活躍の場を提供すること、それが私のねらいです。

新 藤 義 孝