第128号 「硫黄島」がもたらしてくれた縁 -私たちが受け継ぐもの-



 
先日、アカデミー賞の発表がありました。作品賞、監督賞、脚本賞、音響編集賞の4部門にノミネートされた「硫黄島からの手紙」も、大いに話題を呼びまし
た。日本人俳優による日本語の映画がこれ程高い評価を得たことは望外の喜びであり、62年前の兵士たちの想いは今こそ報われた、と感じています。
 これまで週刊新藤では何度かこの硫黄島や祖父・栗林忠道のことをお伝えしてきました。映画の公開を機に孫の私にもテレビ番組や新聞雑誌から取材があり、先祖への供養のつもりで出来るだけ協力をさせていただきました。
 この数ヶ月、私のところへも沢山の方から感想や激励のメールや手紙をいただいております。映画をインターネットで検索し、私のホームページにたどりつ
き、「栗林中将の孫が国会議員をしていると初めて知りました」という方もいらっしゃいました。皆様のご厚情に心より感謝申し上げます。


◆ 作家 梯 久美子さんのこと

 硫黄島関連書籍の中でも評価の高い「散るぞ悲しき」(新潮社刊)。
祖父 栗林忠道の生涯を綴ったノンフィクションです。一昨年の発刊ですが、息の長いベストセラーとなっています。雑誌のフリーライターだった梯(かけはし)久美子さんの作家としてのデビュー作となります。
 この書籍が刊行された頃、ある雑誌に梯さんが硫黄島に関する記事を寄稿しました。その雑誌の表紙は、偶然にも渡辺 謙さんだったそうです。映画の配役はもちろん決まっておらず、不思議な出来事として梯さんから教えてもらいました。
 この作品は昨年の大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しましたが、梯さんは、戦争で命を失った人のことを書いて世に出たことをとても気にしていると言い、
賞金の全額を硫黄島協会に寄付して下さいました。そして硫黄島協会の皆さんと一緒に靖国神社を参拝して下さったのです。


◆ 映画がもたらしてくれた縁

 「硫黄島からの手紙」の脚本は日系米国人のアイリス山下さんで、シナリオライターとしてのデビュー作です。父親の実家は何と川口市戸塚であり、アイリスさんは何度も川口に里帰りしているそうです。これも偶然とはいえ不思議な縁です。
 栗林忠道役の渡辺
謙さんには今回の映画化を通じて素晴らしいご縁をいただいたと感謝しております。私は松代にある栗林の墓参りを始め、何度もご一緒させていただきました
が、実に謙虚で気さくな方でした。一方で役作りにかける熱心で真剣な姿勢に、世界のトップ俳優としての心意気と誇りを垣間見させていただきました。
 渡辺 謙さんのおかげで、私は映画のスクリーンの中とはいえ、これまで見たことのなかったおじいさんに会うことが出来たのです。


◆ 粛然とした予算委員会

 19年度予算の審議が始まった2月9日の予算委員会で、自民党の丹羽総務会長は、90分にわたる質問の最後をこう締めくくりました。
「総理は映画『硫黄島からの手紙』をご覧になったそうですが、一国の最高指導者の目でどのようなご感想をお持ちになったのかお聞かせ下さい」
 この予算委員会はテレビ中継もされていたので、ご覧になった方も多いかもしれません。
 総理は、映画を観たり「散るぞ悲しき」を読んだことをを述べた上で、「栗
林中将は、同僚の新藤義孝議員の母方の祖父にあたり、新藤議員から『硫黄島からの手紙』という書簡を集めた本をいただきそれも読ませていただきました。そ
の中には、新藤さんのお母さん、たか子さんのことを可愛がってあげる時間がなかったのが心残りだ、と記されていました。栗林中将の家族に対する愛情の深さ
を改めて感じました。
 あの灼熱の地獄で戦った兵士たちは、まさに故郷に残した両親や愛する人たちのために何とか頑張ろう、その危険を出来る限り先延ばしするために自分たちはこの苦しさに耐えようということだったのだろうと思います。
 戦後、私たちは、平和で民主的で自由な国をつくってきました。今日の平和の礎となった貴い犠牲を忘れることなく、過去の教訓もしっかりと胸に刻みつけな
がら、私たちが営々と築いてきたものに対して誇りを持ちながら、平和に対して、また我が国の国民の生命と財産を守るということに対して、政治家としてさら
に責任を果たしていくという決意を新たにしたところでございます」

 安倍総理のこの答弁に予算委員会は粛然とした空気に包まれました。


◆ 平和と慰霊のために

 東京都小笠原村である硫黄島には崩れた壕や草木に阻まれ未だ6割の遺骨が未収集のままであり、一人残らず故郷にお帰りいただくまで私たちの遺骨収集活動は終わりません。
 また、私はこの太平洋戦争最大の激戦地・硫黄島を戦没者の追悼と平和を願うシンボルの島として、誰もが慰霊に訪問できるようにしたいと考えています。この島の歴史を風化させることなく次の世代に伝えていかなくてはならないのです。
 かつての先人が自らの役を精一杯果たしたように、私も及ばずながらいただいた役を徹底的に果たしていきたいと思っています。衆議院議員として、子供たちの幼稚園長として精一杯の活動をして参ります。
 今こうした状況を、祖父栗林と、栗林が愛した娘である私の母たか子は、どんな思いで天上から見守ってくれているのでしょうか。私はこの二人に恥じない生き方をしていこうと心に誓っています。

新 藤 義 孝