第81号 生活保護のあり方を考える


◆ 国と地方の対立

 国と地方の税財政を見直す三位一体の改革を進める議論の中で、生活保護費の扱いをめぐって厚生労働省と地方自治体の対立が生じました。
 補助金削減・税源移譲・地方交付税改革の3つを一体的に行うという小泉改革の大きな柱のひとつである三位一体の改革。国から地方への補助金を4兆円削減
し、3兆円の税源を地方に移譲する計画ですが、これまでに2.4兆円の税源移譲が固まっています。残る6,000億円の税源移譲に見合う補助金の削減が課
題となっていましたが、厚生労働省が提示したのが生活保護費の国庫負担率を現行の3/4から1/2に引き下げるという案でした。
 これに対し地方は「国の責任放棄、地方への負担転嫁だ」と強く反発、「生活保護事務の返上も辞さない」と抗議を続けていました。川口市や川口市議会から同様の要望を受けた私は、市議会議長らとともに所管官庁を訪れ、生活保護の地方での実態を訴えました。
 昨年10月には生活保護の受給世帯が100万世帯に達し、1950年の制度発足以来過去最高を記録しました。受給者数は140万人で、わが国の人口の
1%を占めており、生活保護費の総額は2.5兆円にも及びます。単身高齢世帯の増加などで今後も受給者数は増加していくことが見込まれています。財政再建
上の大きな課題となっているのは確かですが、「三位一体の改革」の名の下で、数字合わせに終わることになってはなりません。
 11月29日の関係閣僚による協議で、「地方側の意見を尊重」し、生活保護費の削減は見送られることが決まりました。


◆ 生活保護制度とは

 生活に困窮するすべての国民に対し、国が最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする - 生活保護法第1条には、そう記されています。
 生活保護制度は、自らの資産や能力その他のあらゆるものを活用してもなお生活が維持できなくなった人(世帯)に対して、国の責任において「最低限度の生活」のために必要な扶助等を行うものです。
 保護は、生活扶助とその他の扶助(教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭)に分かれ、保護を受ける人の世帯構成や収入などの状況に応じて適用されま
す。生活保護費は、世帯全体一カ月分の最低生活費から世帯全体の収入(就労、年金など)を差し引いた金額が支給されます。経済・雇用情勢や物価の違いに応
じて6つの区分がありますが、例えば首都近郊の川口市は「1級地-1」に分類されており、国の定めた生活扶助基準(月額)によると、標準3人世帯(33歳
男、29歳女、4歳子供)で、最低生活費は約16万円となります。この世帯に10万円の収入があれば、それを差し引いた6万円の保護費が支給されるわけで
す。

 川口市の場合、生活保護世帯数はおよそ4,000件、5,800人(平成16年月平均)。人口に対する受給者数(保護率)は1.2パーセントです。


◆ 持続できる制度に向けて

 50年を経過したこの生活保護制度は、様々な問題点が指摘されるようにもなっています。
 受給者に一定の収入を保障するものであるが故に、保障水準やその執行状況によってはモラルハザードが生じたり、不正受給や、あるいはその逆に、必要な人が保護を受けられないことも言われています。
 また、地域別の保護率をみると、北海道や大阪府が2%、富山県は0.2%などと、地域によって20倍もの差がみられます。

 40年間掛け続けて得る基礎年金(月約66,200円)よりも生活扶助費が高い、働く母子世帯の平均収入よりも扶助費の方が高い―などという逆転現象への批判もあります。医療費の自己負担がないことから過剰受診などを生じかねないという懸念もあります。
 生活保護は、失業や傷病などが原因で生計を維持できなくなった人と家族を、社会の連帯で支える究極の福祉施策であり、福祉の原点でもあります。保護の申
請受け付けや資産調査、保護の可否などの実務は、厚労省の基準に基づき地方が行っていいます。まさに国と地方が一体となり担ってきた制度です。
 国と地方自治体の共同作業と連帯責任によって、高齢化社会にあっても持続可能な制度のあり方検討し、受給者に就労による自立を促して被保護世帯を減らしていく努力をしていくべきでしょう。

新 藤 義 孝