◆ 国民不在の政局闘争
国会の政局が混迷の度合いを深めています。
小泉総理が改革の本丸と位置づけ、今国会最大の焦点とされる郵政民営化問題。しかし、同法案の審議は核心に至らないまま、そして国民に充分な内容の説明
もないままに「民営化」というお題目だけが先行し権力闘争の道具にされてしまっており、国会運営は見るも無惨な状況になっています。
マスコミ報道においても、与野党の対立、政府与党内の調整、さらには自民党内の造反といった記事ばかりが目立ち、内容に対する議論には国民は置きざりにされてしまっています。
景気対策、年金・医療などの社会保障制度改革、雇用対策、アジア周辺諸国との外交問題や北朝鮮問題、治安・犯罪・テロ対策等々、国内外において直面している喫緊の課題は山積しており、国民の願いを無視したコンセンサスなき国政運営には憤りを禁じ得ません。
同法案はわずか5票差で衆院を通過し、舞台は参院へと移されました。しかし、このまま国民不在の政局闘争が加速していけば、国民の政治離れは頂点に達することでしょう。
◆ 皮肉な自民党の分裂劇
党議拘束や派閥の締め付け、それに対する派閥内外での対立・造反など、自民党の分裂劇も見苦しいばかりです。
そもそも小泉内閣成立当初のスローガンは「自民党の改革」と「派閥の打破」だったはずですが、それが今、こうした形で実現されつつあるとは何とも皮肉な話です。
平成13年の自民党総裁選において、私は、「旧態依然とした派閥政治の弊害を打ち壊し、古い政治文化や既得権益のしがらみに縛られない、新しい時代の党
首を生み出す」のだという信念のもと、橋本派に所属しながらも派閥によらない自由な総裁選挙の実施を訴え、若手の仲間とともに行動しました。今でも橋本派
反乱軍という扱いを受けていますが、結果として自民党が変わるきっかけになったと思っています。さらに、「日本再生に向けた未来の国家ビジョンを創造できる新世代の総理を」という理念から、20余名の自民党若手議員らとともに「新世代総理を創る会」を発足させました。
その後私は、総務・外務の2度の政務官時代を通じて、日本の構造改革の実現に向け微力を尽くして参りました。それ故に現在の政治的混乱は嘆かわしいばかりであり、国政に参加できない浪人の身の自分が悔しくてなりません。
◆ 理念なき国に未来はない
混乱の原因は郵政問題ですが、本来は「民営化」が目的なのではなく、膨大な財政赤字解消に向けた350兆円もの郵貯・簡保の有効活用、財政負担の軽減と
いう、「官から民へ」を目指す構造改革を具現化した政策だったはずです。その基本的な考え方については私も支持していますが、しかしながら、この日本の経
済システムを大きく変えようとする改革について、長期的視野に立った明瞭なビジョンが私たち国民に示されないことこそが問題なのです。
“Where there’s no vision, the people perish.” 「ビジョンなきところ民は滅びる」- 聖書に出てくるこの言葉のように、より良い未来への展望があるから人は希望を抱いて生きていけるのです。明るい未来を希求するからこそ、困難と思える目標にも実現に向けて努力していけるのです。
◆ ビジョンに基づいた政党の再編を
国内での自殺者は7年連続で3万人を越えています。長引く不況が影響しているという点も多々あるのでしょうが、私はそこに、人生の目標や生きる目的を見失ってしまった人たちの悲しい姿が思い起こされてなりません。
現在、我が国は構造上の激変期にあります。加速する少子高齢化と人口減少に伴うゼロ成長経済、勤労世代の社会保障負担の増加などに対し、従来の社会システムでは対応できない時代に突入していきます。
今回の混乱を見ていると、現在の自民党ではこの激動の時代の要請に対し、統一された行動ができなくなっていることは明らかです。
こうした時代に私が考える将来ビジョンとは、「小さな政府」の実現、「地方分権と民間活力の導入」、「安心・安全社会の構築」、「顔の見える国際貢献」等ですが、明確なビジョンを構築することが政治家にとっての重要な使命であり、そうしたビジョンに基づいた、自民党、さらには他党も含む政党の再編成こそが、今最もこの国に求められているのではないでしょうか。
新 藤 義 孝 |