◆ 回復難しい日中感情
中国各地で起こった反日デモは、表面的には沈静化しつつあります。しかし、中国の呉儀副首相が小泉首相との会談を急遽取りやめた問題の波紋が広がり、修復に向けて動き出したように見える日中関係も、再び険悪化しています。
首脳レベルの会談を突然キャンセルするのは異例なことであり、また今回の会談は中国側の要請によるもので、外交儀礼に反する事態です。
中国側は、これまでの反日デモによる日本大使館などへの破壊行為についても謝罪していません。こうした対応に反感を持つ日本国民は多く、私のまわりでも中国への非難の声が聞こえてきます。
◆ 中国側の思惑
呉儀副首相が会談をキャンセルした理由として、中国外務省報道局長は、靖国神社参拝問題に関する小泉首相の発言への不満をあげました。
5月22日には、訪中した武部自民党幹事長らと会談した胡錦濤国家主席が、「近年目にしたくない動きが日本にある」として、靖国神社参拝や歴史教科書問題等を挙げ、小泉首相の靖国神社参拝などに反対する考えを重ねて表明しました。
しかし、一連の反日デモでは、こうした日本側の歴史認識問題に加えて、日本の国連安保理常任理事国入りの問題を絡めて唱えており、ここに中国政府の意向が反映されていることは疑念の余地がありません。
中国の反日感情の大部分が中国共産党が行ってきた教育に起因するのなら、デモは中国政府の思惑の下で生じたものと考えられるからです。
中国原潜による日本領海侵犯、尖閣諸島の領有権や東シナ海の一方的なガス田開発など、最近の中国の動きは日本に対する強硬的な姿勢が目立っています。
ここに、歴史的な被害者という立場を主張しながら強い態度に出れば日本はすぐ譲歩する、という中国側の計算が見えてきます。
◆ 中国人とつきあうには
私は国政に参画している間、様々な中国との会議や行事に参加しております。多くの中国人と議論をし交流を持ち、友人になりました。
私が中国の人たちと接触したのは、国会議員としてだったり、外務大臣政務官として公的ではありますが、非公式な両国関係者による意見交換です。儀礼的な
表敬活動ではなく率直で突っ込んだやり取りの中で、お互いの本音をぶつけ合う厳しいものでしたが、そのおかげで多くの友人と呼べる中国人と知り合うことが
できました。
平成12年からはじめた自民党若手議員7人と中国共産党対外連絡部の若手による勉強会は、北京郊外に合宿して2日間に渡り両国の懸案を議論しました。
ODAや農産物のセーフガードなど経済問題から始め、靖国神社と歴史認識問題、さらには中国の軍事力の増大による東アジアの安全保障問題など、私は歯に衣
を着せず発言しました。中国側からも激しく反論があり、熱を帯びた議論は机を叩き感情をむき出しにしたものになってしまったのです。
議論は平行線をたどり結論は出せませんでした。でも不思議なことに休憩時間になると中国側の態度が変わるのです。「今の議論は日本人の本音が聞けてとて
も良かった。私の意見はどう感じますか?」と、にこやかに聞いてきます。そうして会議が再開されると、また厳しいやり取りの応酬になるのです。その夜の懇
親会がとても楽しく盛り上がったことは言うまでもありません。
平成13年・在京中国大使館の参事官に会食に招かれた時も、靖国と歴史問題で大激論になりました。この時は年齢が私が3歳上であることがわかり、議論を決
着させました。同行した仲間の議員からはご馳走になって文句を言っているとあきれられましたが、やはりこの参事官との信頼関係はその後もいろいろな場面で
役に立ちました。
平成15年・インドネシアのジャカルタでの李 肇星中国外務大臣との2国間協議のときもそうでした。李外相はいつものように歴史問題の主張をされましたが、私は両国の哲学や宗教観の相違についてはっきりお話させていただきました。
中国には中華思想(世界の中心は中国である、という帝国時代の考え)が残っているといわれます。また、基本の国といわれ、まず自分の主張をし相手の反応を探る国とも言われています。我々日本人とはまったく違う民族性があるのです。
最近の日中の外交摩擦問題を憂慮する報道が硬軟各々の論点で連日なされております。隣国であり成長目覚しい中国との良好な関係を維持することはまず大前
提です。しかし、軋轢を恐れるあまり自らの主張を明確にせず、事なかれ主義でこれに臨むことは、相手国に対して結果的に失礼になると私は思っています。
国際社会は友好親善の場であると共に、冷徹な国と国とのパワーゲームです。独善的な理屈や行動は理解を得られませんが、自国の立場を鮮明にできない国は
決して尊敬されません。国連の常任理事国にわが国が加えられるか否か、事態は予断を許しませんが、戦後60年を経て日本の外交は新しいステージに立つべき
だと私は考えています。
中国との問題は驕らず高ぶらず、互いに礼儀と信頼の気持ちを持ち、本音をぶつけ合って話し合いを続けていくべきです。
新 藤 義 孝 |