第38号 「サンタって本当にいるの?」 バージニアからの手紙

“Yes, Virginia, There is a Santa Claus…”
   from THE NEW YORK SUN. 1897


が園長を務める川口ふたば幼稚園では、毎年12月に園児たちによる演劇発表会を行います。私は毎回サンタクロースの扮装をして登場するのですが、子どもた
ちは大喜びで私の周りを取り囲みます。中には「サンタさんは園長先生なんでしょ?」と聞いてくる子どももいますが、私は「違うよ」と笑って答えます。とて
も嬉しく思ったのが、小学5年生になった卒園児が私を訪ねてきてくれたときのことです。その子はひとしきり幼稚園時代の思い出話をしたあとで、「あの時の
サンタさんは、やっぱり先生だったんでしょ?」と私に尋ねます。しかしそこでも私は「違うよ」と答えると、その子は「えー?」と言いながらも嬉しそうに
にっこりと微笑みました。

皆さんはお子さんに尋ねられたことはありませんか?「サンタって本当にいるの?」と。

現在でも語り継がれている有名な新聞社説があります。このお話は今から100年以上も前、ニューヨークに住むバージニアという女の子が、学友にサンタの存
在を否定されたことから始まります。バージニアはお父さんのすすめにしたがって、新聞に投書してみました。その新聞社、ニューヨーク・サン紙は、小さな女
の子からのたどたどしい手紙を社説で取り上げ、こう答えたのです。

「こんにちは。わたしは8さいの女の子です。ともだちが、サンタクロースなんていないといいます。パパは、わからないことがあったらしんぶんにきいてみなさいといいました。ほんとうのことをおしえてください。サンタクロースはいるのですか?  バージニア・オハンロン」

「バー
ジニア、それは友だちの方がまちがっているよ。きっと、見たことがないものは信じられないんだね。自分のわかることだけが全てだと思ってるんだろう。でも
ね、大人でも子どもでも、全てのことがわかるわけじゃない。この広い宇宙の中では、人間って小さな小さなものなんだ。ぼくたちは、まだこの世界のことをほ
んの少ししかわかっていないんだよ。

そうだよ、バージニア。サンタクロースはいるんだ。愛や、思いやりや、いたわり
いう気持ちがちゃんとあるように、サンタクロースもちゃんといるんだ。愛もサンタクロースも、ぼくらに輝きを与えてくれる。もしサンタクロースがいなかっ
たら、暗くさみしい世の中になってしまうだろう。人が感じるのは、ただ目に見えるもの、手で触れるものだけになってしまう。信じる心も、詩を楽しむ心も、
人を好きだって思う気持ちも、全部なくなってしまうだろう。みんな、何を見たって面白くなくなるだろうし、この世界を楽しくしてくれる子どもたちの笑顔
も、消えてなくなってしまうだろう。

クリスマスイブの日に、パパに頼んで煙突を見張ってもらったとしよう。サンタクロースが煙突から降りてくる姿を見なかったとしても、それがどんな証拠にな
るだろう。サンタクロースは誰にも見えないんだ。この世で一番大切なものというのは、子どもの目にも大人の目にも見えないものなんだよ。

目に見えない世界には、どんなに力の強い人がたばになってもこじ開けることのできないカーテンがあるんだ。信じる心や想像力、詩を楽しむ心、愛や人を想う
気持ちだけがそのカーテンを開けることができて、たとえようもなく美しい世界を見たり、思い描くことができるんだ。いいかい、バージニア。これほど確か
で、いつまでも変わらないことはないんだよ。

サンタクロースはずっと、いつまでもいるんだよ、バージニア。何千年たっても、何万年たっても、きっとサンタクロースは子どもたちの心をわくわくさせてくれると思うよ」

1897年に掲載されたこの心暖まる社説は、以後幾度となくクリスマスが近づくと世界中の新聞雑誌で取り上げられてきました。日本でも新聞やテレビで紹介されたり日本版の絵本にもなっているので、ご存知の方も多いでしょう。


の手紙を送った少女、バージニアは後に教職に就き、晩年はブルックリンにある長期入院児童のための公立学校で校長を務めました。その生涯にわたって、幼い
彼女が書いた投稿についての手紙を受け、その全てにこの社説のコピーを添えた返事を書いていたそうです。彼女が81歳で亡くなったとき、ニューヨーク・タ
イムズは、「サンタの友だちバージニア」という記事を掲載、「アメリカのジャーナリズムにおいて、もっとも有名な社説が書かれるきっかけとなった少女」と
その死を悼んだのです。

夢や希望、人を思いやる気持ち、信じる心。目には見えなくても確かにある大切なもの。そういったものをサンタクロースと呼ぶなら、現代ほどサンタクロースが必要とされている時代はないのかもしれません。

皆さんはこの社説を読んで、どうお感じになったでしょうか? 最後に、アメリカのある児童文学評論誌に掲載された文章の要約をご紹介させていただきます。

「子
どもたちは、遅かれ早かれサンタクロースが本当は誰かを知る。知ってしまえば、そのこと自体は他愛のないこととして片付けられてしまうだろう。しかし、幼
い日にひとたび心にサンタクロースを住まわせた子どもは、その心の中にサンタクロースを収容する空間をつくりあげ、信じるという能力を養う。私たちは、サ
ンタクロースその人だけでなく、サンタクロースが子どもの心に働きかけて生み出すこの能力をこそ大切にしなければいけない」

新 藤 義 孝