第15号 わが街のDNA2 市民に根付いた文化活動 「(リリア)」

「わが街のDNA」シリーズの2回目として、今号では第13号でお伝えした川口の文化の発信基地である「リリア」の知られざる運営システムと、「リリア」を支える市民の文化活動の一端をご紹介したいと思います。


「リリア」開館前の5年間、管理運営担当の任にあった私は、「公共の施設としては類例のない文化の殿堂を作る以上、『仏を造って、魂を入れず』ということ
が絶対にあってはならない」と、心中期する思いがありました。つまり、川口のより良き文化の構築に貢献し、またイメージアップを図るためには、よりクォリ
ティの高い舞台芸術を市民に提供していかなければなりません。また、市民に大いに活用してもらうためには、リーズナブルな料金設定も必要不可欠な要素で
す。そのためには公共の非営利施設ではありますが、経営資本の基本である「人」、「もの」、「カネ」の確保と適切な運用システムの構築が急務であると考え
たのです。


ず、「リリア」の運営を行う「文化振興財団」を設立することにしました。「人」に関しては川口市からの職員の出向と、民間から優秀な専門家を集めて組織を
整えました。「もの=リリアの施設」に関しては、メインホール(2000人収容)は2階の張り出しを大きくするなど演劇重視の設計とし、音楽ホール
(600人収容)はスピーカーを使わないアコースティックホールとし、中央にスイス製のパイプオルガン(1億3千万円!)を設置。徹底的に音質にこだわり
ました。

そして、「カネ」の部分では、市の公共施設として宿命ともいえる壁がありました。市民のための施設ですので、赤字覚悟の利用料でなければいけません。です
から利用が多ければ多いほど赤字となり、逆に利用が少なければ建設した意味もありませんし、維持・管理費だけが使われていくことになります。また、一流の
アーティストや劇団等を招聘した場合でも、チケットを買い求めやすい価格にしなくては、一部の愛好家だけのものとなってしまうでしょう。つまり、稼働率を
上げても下げても赤字であり、またハイクォリティーなイベントを行っても赤字という現実が待っていたのです。


こで、私はあらゆる方策を考え、また可能性のあるものには体当たりでぶつかっていきました。その結果、私は「リリア」の事業を担っていく文化振興財団を支
える3つの柱を構築しました。1つは財団法人の自主財源の確保です。誌面の都合で詳しくは述べられませんが、「公有財産法」や「地方自治法」の解釈をめ
ぐって、直接、当時の大蔵省や自治省にかけあい、リリアという行政財産の使用にかかる特例を認めてもらいました。

2つ目は、「文化振興基金制度」を創設しました。「川口オートレース」の収益金の約3%を、毎年、「リリア」の文化振興財団が自由な裁量のもとで使用でき
るようにしました。現在はオートレース事業の縮小によりこの制度は使われておりませんが、開館初期の頃には、年間1億円以上の予算がリリアの文化事業のた
めに充当されておりました。エジンバラ演劇祭の招致や海外アーティストの招聘など、大型イベントの財源としたのです。

3つ目は、ボランティアの存在です。志のある市民や企業に「リリアの成功が市の発展につながり、それが自分たちに有形、無形に還元される」という理念のも
と、多くの方々にお声がけをしました。一人でも多くの方の参加があって街に文化が根づいていきます。「リリア」を基に川口のボランティアの花がひらきまし
た。今月24日、25日に行われる「川口国際文化交流フェスティバル2004」は、まさに市民の手作りのイベントとして定着しました。

また、「リリアズパッションクラブ」があります。100名近くの民間企業の有志の方が集まって主催興行をし、またリリア主催の事業を支援してくれているのです。

このような努力の積み重ねによって、「リリア」は数ある日本全国の市営のホールや劇場の中でも、「自主財源率」がトップレベルにあり、市民の税金による負担は低水準を維持しつつ、市民にはより高い文化的な還元を保ちながら、今日に至っているのです。


後に「リリア」の文化事業を支援する団体の一つである「川口四季倶楽部」をご紹介いたします。「川口四季倶楽部」は演劇を愛する市民が集まって、より質の
高いミュージカルを1人でも多くの市民に提供したいとの願いで発足しました。「リリア」開館の翌年から、「川口四季倶楽部」は年2回(大人向け、子供向け
各1回)の「劇団四季」の公演を主催し、今年で14年目を迎えています。とりわけ子供向けの公演では、3階席244席すべてを子供のために無料開放し、
「川口のすべての小学生が卒業するまでの間に、一度は本物のミュージカルにふれてもらいたい」という目的のもと、毎年、教育委員会とタイアップして市内の
小学生を招待しています。
今年7月27日(火)には、メインホールにて「桃次郎の冒険」が上演予定で、3階席は交通遺児の皆さんや市内の小・中学生に提供されることになっています。

『週刊新藤』の読者の皆さまも、お時間に余裕のある方は、ぜひお子さんと共に「リリア」に足を運んで頂ければと思っています。

文化の構築は大きな街の財産となり、豊かな精神生活を約束してくれます。物質文明は滅びても、精神的な文化は絶えることなく人々の心の中に受け継がれてい
きます。私は「リリア」を中心に、川口により良き文化が創造され、市民のひとり一人の心に常に発信され続けていくことを、心から念願してやみません。

新 藤 義 孝