韓国大法院による日本企業への判決について分析した、かねてより懇意の西岡 力先生による産経新聞記事です。この度の韓国内の訴訟の本質的な問題が書かれています。(2018年11月02日)

 

韓国大法院による日本企業への判決について分析した、かねてより懇意の西岡先生による産経新聞記事です。
 
元徴用工と表現される原告は、国や民間企業の募集に応じた労働者でした。「徴用」を意図的に使用することで「強制動員」を想起させる狙いが見え隠れします。
 
私たち自民党の決議では「戦時中の朝鮮半島出身労働者」と表記しました。
 
この記事には、この度の韓国内の訴訟の本質的な問題が書かれています。是非ご一読いただくと共に、多くの方へのシェアをお願いします。
 
(西岡先生の許諾を得てご紹介しています。転載はご遠慮いただきますが、シェアは問題ありません。)
 
 
 韓国の対日「歴史戦」に対応せよ(平成30年11月1日 産経新聞 正論
                 西岡 力 モラロジー研究所教授 麗澤大学客員教授)
 
10月30日、韓国の最高裁判所が新日鉄住金(旧日本製鉄)に対して戦時中に同社で働いた4人の元工員に1人1億ウォン(約1千万円)の損害賠償を支払うよう命じた。
 
 すでに私は8月8日付本欄などでこの事態を予想して2つの提言をしてきた。第1に、政府が積極的に介入して民間企業の財産を守ること。第2に官民が協力して国際社会に、戦時労働動員と日韓戦後処理の真実を広報することだ。
 
 ≪原告は「元徴用工」ではない≫
 日本では4人の原告を「元徴用工」と呼び、裁判を「元徴用工裁判」と表現している。しかし、4人の経歴を調べてみて、その呼び方はふさわしくないことが分かった。彼らは「徴用」で渡日したのではない。1人は1941年に、3人は43年に徴用ではなく「募集」「官斡旋(あっせん)」で渡日している。なんと2人は平壌で日本製鉄の工員募集の広告を見て、担当者の面接を受けて合格し、その引率で渡日したという。
 
 国家総動員法に基づく朝鮮での戦時労働動員は、判決のいうような「日本企業の反人道的不法行為」ではなかった。戦時における合法的な民間企業での期限契約賃労働だった。
 
 39年から41年に民間企業が朝鮮に渡って実施した「募集」、42年から44年9月まで朝鮮総督府が各市、郡などに動員数を割り当てて民間企業に引き渡した「官斡旋」、44年9月から45年3月頃までの徴用令に基づく「徴用」の3つのタイプがあった。
 
 どれも動員先は民間企業で、通常2年の期限契約だった。軍隊という国家組織に動員された軍人・軍属などとの大きな違いだ。待遇は総体的に良かった。44年に広島の軍需工場に徴用された労働者は月給140円をもらっていた。
 
 当時、日本人男性の多くが徴兵のため不在で、日本本土は極度の労働者不足となり賃金が高騰していた。だから「募集」の時期には出稼ぎ目的の「個別渡航」が並行して多数あった。「募集」15万人、「個別渡航」など44万人でむしろ後者が多かった。
 
 
 ≪動員対象者になりすます事例も≫
 また、同じ時期、渡航許可なしに不正に渡日して送り返された者が1万6千人いた。驚くべきことに不正渡航者の中には動員対象者になりすましたケースがあった。日本での賃金が高かったからこそ起きた現象だ。
 
 「官斡旋」「徴用」の時期は「個別渡航」はほぼなくなった。無秩序に渡航する出稼ぎ者の流れを戦争遂行に必要な産業に送り込もうとして統制を強めたのだ。しかし動員先から約4割が逃走し、より待遇の良い別の職場に転職した。逃亡の多さを待遇の悪さの例とする論が一部にあるが、それなら逃亡した者らは朝鮮に帰ったはずだ。実際は帰らずに別の職場に移動した。中には渡日した直後に、事前に連絡を取っていたブローカーの助けで別の職場に移るケースもあった。
 
 原告は「賃金の大部分は強制貯金させられ受け取れなかった。逃亡したかったが警備が厳しくできなかった。募集広告に出ていた内容と実際の仕事が違った。憲兵に理由もなく殴られた」などと主張している。民事裁判だから被告が法廷で争わない部分については原告の言い分が認められてしまう。日本企業は過去の記録や先輩社員らの証言を早急に集めておく必要がある。過去に元慰安婦が2年半でためた2万6千円の貯金記録が見つかっている。
 
 韓国は65年の日韓協定で3億ドルを受け取り、75年と2008年に2回、未払い賃金や貯金があった者への清算を行った。原告もそのとき清算を受けられたはずだ。
 
 
 ≪公的な研究広報組織をつくれ≫
 原告は日本の支援団体の励ましでここまで来られたと述べている。戦時動員の裁判は1990年代、まず日本の運動家や弁護士が韓国などで原告を捜し、費用を日本側が負担して始まった。それが全部敗訴してから、やはり日本の運動家らの勧めで韓国での訴訟が提起されたという。
 
 2005年、盧武鉉大統領は「強制徴用」「慰安婦」に対する賠償を求める演説をして対日外交戦争を宣布し、東北アジア歴史財団をつくって研究と広報の体制を整えた。また、首相傘下の「日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会」をつくり、「動員被害者」として22万人(労働者15万人、軍人軍属7万人)を認定した。この盧政権から始まった対日歴史戦に、日本の学者・運動家らは「強制動員真相究明ネットワーク」(内海愛子共同代表)を結成して全面的に協力した。釜山にある「国立日帝強制動員歴史館」では「良心の声」の持ち主として、内海氏ら18人の写真が飾られている。
 
 このままでは22万人から1人1千万円、合計2兆2千億円の賠償を求められるかもしれない。わが国が10年以上、韓国政府の歴史戦に政府レベルで対応してこなかったつけだ。
 日本の立場からの徹底した調査研究と国際広報を行うため、わが国も公的な研究広報組織をつくるべきときが来ている。
 
(にしおか つとむ)
※西岡 力教授の許諾無しに無断転載禁止
 
 
 
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