週刊新藤第235号 ☆G空間社会と準天頂衛星システム~未来を拓く先進事業を経済の起爆剤に~

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厳しく苦しい一年でした。新しい年が少しでも良い年になるよう、みんなで力を合わせてがんばりましょう!


◆ G空間プロジェクトとは

 今年はわが国にとって国難とも言うべき年でした。未曾有の大地震・大津波、原発事故と電力不足、円高・デフレ不況、稚拙な外交・・・これらが複合的に重なり合い、我々は今、非常に激しい国力の低下に直面していると言わざるを得ません。
 しかし、こういう時こそ国の力を結集し、未来を拓く新しい事業を進めていかなければなりません。
 その一つがG空間(Gは地球空間=ジオスペイシャルの頭文字)プロジェクトという、衛星測位データと電子基盤地図データを組み合わせた新しい社会づくりの試みです。
 私はこの根拠法である「地理空間情報活用推進基本法(議員立法2007年 5 月成立)」の提出者であり、自民党推進組織の事務総長を務めております。


◆ 衛星4機体制を閣議決定

 現在日本は衛星測位システムとして米国のGPSを利用していますが、この精度を高める日本独自のシステムが準天頂衛星システムです。
 昨年 9 月11日には種子島から初号機「みちびき」が打ち上げられ、私も現地で立ち会いました。
 今年 9 月には、準天頂衛星システム事業の推進が閣議決定され、2010年代後半までにあと 3 機を打ち上げることが決まりました。
 来年度予算では目玉である「日本再生重点化措置」という特別枠に準天頂衛星システム予算が盛り込まれています。

資料:準天頂衛星初号機「みちびき」による技術実証・利用実証等zu01.jpg



 ◆ 衛星測位システ ムを経済の起爆剤に

 準天頂衛星が実用化されれば、測位精度が現在の数十メートルから数センチ単位になり、私たちの暮らしを大きく変えることになります。
 例えば、移動体のナビゲーションが飛躍的に向上することにより、高速道路での車両の無人走行や、悪天候下での航空機・ヘリの安全な運航が可能となります。
 さらに農耕トラクターを自動走行させるIT農業や、工事現場のIT施工、物流の積み卸しロボットなど、活用可能範囲はアイデア次第です。

資料:衛星利用の裾野拡大プログラム
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 さらに、お年寄りや子どもへの見守りサービス、洪水予測や土砂崩れ予測など、医療や行政サービスに最先端の科学技術を駆使し、先進的で安心・安全・便利な社会を作ることが出来ます。
 G空間社会の実現による効果は、新産業創出42兆円・経済波及72兆円・雇用創出280万人が見込まれ、我が国経済の起爆剤として大きな期待が寄せられているのです。

資料:海底地殻変動観測技術の高度化
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 ◆ 災害時の避難・人命を救うために

 本当に多くの犠牲者を出してしまった東日本大震災は我々に、次に大きな災害が来た時にいかにして命を守り、社会の安定を維持するか、という問題を突き付けました。
 東北のある地域では、地震発生後3 メートルの津波が来るという第一報が出され、住民は 6 メートルの場所に避難しました。ところがそこに10メートルの津波が襲ったのです。
 津波情報は次の更新で10メートルになっていましたが、停電や機器の損壊や混乱の中で、電話は不通になり、避難指示は伝わらず多くの人命が失われてしまったのです。


◆ 準天頂衛星により正確な津波予測が

 現在の津波情報は、沖合のGPS波浪計と地上局の交信でもたらされますが、沖合20kmまでが限界です。
 しかし準天頂衛星が整備され地上局との交信が不要になると、沖合50kmまでカバーでき、しかもセンチ単位で波浪計測が可能になるのです。これによって、津波予測は飛躍的に向上されます。

資料:準天頂衛星による津波検地
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◆ 43億通りのメール送信が可能に

 また、震災直後は停電・携帯基地局の被災・携帯使用の集中による通信麻痺などにより、自分の安否情報を他に伝えられないことで犠牲者が増え、また家族や知り合いの安否確認がとれないことが社会的な不安を増幅させました。
 準天頂衛星の双方向通信システムは、1 時間に360万件の情報を処理でき、東北地方の災害なら約 3 時間で全員の安否確認ができます。
 また衛星からエリアメールという災害・避難情報を示したメールを43億通りのアドレスに送ることが可能となります。
 例えば、ガレキに埋もれた人を、携帯からの位置情報を頼りに救出することができるようになるのです。

資料:準天頂衛星による災害情報提供・避難誘導


◆ 総合的な防災体制整備が必要

 ところが24年度の政府予算要求には、衛星情報を受発信し、避難情報を国民に提供するための「(仮)総合防災センター」の準備経費が入っておりません。
 衛星打ち上げ担当と防災対策担当など、省庁間の横の連絡が出来ていないのです。
 これこそ政治がリーダーシップを発揮して関係省庁に指示を出すべき事柄ですが、残念ながらそれを理解し実践する閣僚がいないと言うのが実情です。
 衛星打ち上げの準備経費も必要額の 4 割しか計上されておりません。
 11月に開催した自民党の地理空間・宇宙合同部会で、私は各省に対し必要予算を確保した上で、宇宙政策と防災対策をパッケージで進めるよう厳しく注文をつけました。


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◆ 宇宙関連市場は毎年10%の成長

 12月 9 日には私が参加する超党派の宇宙議連で、来年度の宇宙関係予算が議題となり、私は総理大臣に提出する決議文に「衛星システムと防災情報利用システムの開発を進める予算措置」の文言を入れるよう提案し、盛り込むことになりました。

資料:平成24年度宇宙関係予算の充実に関する決議

 国際的な宇宙関連市場は毎年10%以上成長している有望な分野であり、ここに防災の観点も含め大規模な投資をすることで、我々の命と生活を守るのみならず、大きな経済成長も併せて見込めるのです。

資料:世界の衛星測位と補強システムの計画
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◆ 厳しい時だからこそ未来への夢を

 衛星測位事業を推進しているのは日本だけではありません。米国「GPS(24基運用中)」、欧州「ガリレオ( 8 基打上げ済み)」、中国「北斗( 8 基打上げ済み)」、ロシア「グロナス(24基運用中)」という具合に激しい競争を繰り広げています。
 しかし他国が取り組んでいるのは全地球型測位システムであり、地域限定で、他の衛星測位システムを補強し制度を高めるという方式は、唯一日本しか取り組んでおりません。
 この新しい衛星システムは日本国内のみならず、アジアやアフリカなどで活用することも考えられます。
 衛星打ち上げから、通信、災害対策や産業・交通サービスまで、システム全体をパッケージとして他国に輸出することを考えてみましょう。
 我が国は、世界中の人々の暮らしの利便性向上に貢献しつつ、莫大なビジネスチャンスを手にすることも夢ではないのです。
 今、我が国は極めて厳しい状況にあります。しかしこういう時こそ、暮らしに変革をもたらす新しい分野に挑戦し、蓄積してきた科学技術の力で新しい未来を拓くべきです。
 厳しく苦しかった一年だからこそ、それが過ぎようとしているこの時に、新たに迎える年を見据え、希望の持てる明るい明日と夢の実現を考えたいと思います。



 新 藤 義 孝