週刊新藤第233号 国会版「事業仕分け」始まる~立法府による行政監視機能充実の試み~

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憲政史上初めてとなる「行政監視審査」の模様は、私のホームページに動画を載せてあります。是非ご覧ください。各事業テーマに対する決議は、現在とりまとめ中であり、議決でき次第ご報告します。


◆ 民主党「事業仕分け」の矛盾

 この度、私が委員長を務める決算・行政監視委員会では「行政監視に関する小委員会」を設置し、憲政史上初めてとなる国会版のいわゆる「事業仕分け」を行いました。
 2009年の政権交代後、民主党政権が事業仕分けを行い、国民の大きな注目を浴びましたが、この業務は設置に関する法的根拠がなく、政府に対し意見を言うのみで何の拘束力もありません。結果として事業仕分けの目的であるムダな予算のあぶり出しや削減はほとんど実績をあげることが出来ませんでした。
 また、仕分けの 1 回目は自民党が組んだ予算を批判し削減の声をあげれば良かった訳ですが、 2 回目以降は民主党自らが提案した予算を「ムダ」と糾弾することになり、それならば「予算編成前になぜ自分で削らないのか」という矛盾を抱えることになってしまったのです。


◆ 国会の委員会による初めての試み

 一方、決算・行政監視委員会は、平成 9 年12月の国会法改正により、前身の決算委員会を発展的に改組したものです。
 従来の決算審査に加え、現状の行政制度・施策の改善について、委員会の議決により省庁への「勧告」を出来る権能を与えられています。
 ところが、平成10年から私が委員長に就任した本年 1 月に至るまで、本委員会による「勧告」は一度も行われておりませんでした。
 私はこのことを事務方から説明を受け、この委員会が持つ本来の機能を発揮させることと、政府が行う事業仕分けの問題点の解消が同時に解決できないか、と考えたのです。
 私たちが始めた取り組みは、法律に基づいて設置された「国会=立法府」の委員会が、「政府=行政」の予算や制度・政策を監視し、必要に応じ法律に基づいた是正のための決議・勧告を行うという仕事です。
 当初の記者会見などでは、わかりやすいように「仕分け」という表現を使いましたが、この小委員会が行う行政監視審査は、政府が行う事業仕分けに対抗するものではなく、私たちは国会の持つ権能に基づいて、国会議員本来の役割を果たそうとしたものだ、ということを是非ご理解いただきたいと存じます。


◆ 与・野党が共に参加する取り組み

 私は本年の春先から新たな審査を始めようと準備しておりましたが、3 月の東日本大震災により、その対応を優先させたことから半年遅れ、この度の審査開始となったのです。
 委員会の下に新たに設置する14人で構成する小委員会の名称は、委員長提案で決めさせていただき、11月1 日の決算・行政監視委員会で、「行政監視に関する小委員会」が設置され、私が小委員長も兼ねることになりました。
 今回最も重要な点は、与野党が相談し、協働で作業を進めたことです。
 政府の事業仕分けは与党のみで行っており、野党は参加しておりません。行政のチェックは与野党が共に果たすべきであり、その際は、与党も野党もなく、国民の代表として審査を行うべきではないでしょうか。
 今回私がとても誇らしく思っているのは、この小委員会に参加した全議員が与野党の立場に関係なく、自らの問題意識と信念に基づき質疑を行ったことでした。


◆ 事業選定・審査の方法、手順

 まず必要なのは、対象事業の選定です。各省が政府に提出した、5000枚以上の行政事業レビューシートから与野党の担当理事により対象事業を10程度に絞り、そこから更に各党間の協議を経て、今回対象とした 4事業(スーパーコンピュータの開発・運営、医療費レセプト審査事務、公務員宿舎の建設・維持管理、原子力政策及び関連の独立行政法人・公益法人)を選定しました。
  4 つの事業はいずれも国民の関心が高く、行政上のチェックが必要と判断された中から厳選しました。
  1 事業の審議時間を90分とし、国会運営上開催可能な日程として 2 事業づつ 2 日間で 4 事業を審査することで各党が合意しました。


◆ 自由討議形式で議論の活発化

 小委員会の質問形式は、通常の委員会のように一人が持ち時間を使って行うのではなく、一問一答形式で質問したい人が何度でも行える自由討議形式としました。
 また通常の委員会では、政府に対する質疑と参考人に対する質疑は別々に行いますが(つまり省庁と民間参考人は同席しないのです)、行政監視小委では、当該分野に詳しい民間参考人と政府答弁者を同席の上、議員が双方から意見を聞き答弁を得られるようにしました。
 例えば「今の政府の説明に対し参考人は違う意見を主張しているが、政府はどう受け止めるか?」。その逆も然りです。政府の説明と民間の主張を同時に質すことにより、密度の濃い議論が展開されました。


◆ 7段階の評価で事業を切り込み

 事業の評価方法は、質疑終了後、公平を期すため委員長以外の13委員が評価シートに記入します。
 評価基準は、①廃止 ②実施は各自治体/民間の判断に任せる ③来年度の予算計上は見送り ④予算要求の縮減または組替・見直し ⑤組織・制度の改編 ⑥予算要求どおり ⑦予算の増額を検討する
の 7 段階としました。
 政府の事業仕分け評価は 5 項目であり、⑤と⑦が私が理事達と相談しながら加えたものです。
 行政監視審査においては予算を削るだけでなく、よい提案に対しては逆に予算を増額すべし、という意見があってもよいと考えました。
 その場合は増額分の予算を他で削る、いわゆるスクラップ アンド ビルド方式の提案となりますが、それくらいの気合で政策を立案してほしいという願いを込めたものです。


◆ 「立法府の意志」を政府へ申渡す

 小委員会での議論は、内容を整理し、親委員会の決算・行政監視委員会の理事会がとりまとめます。
 理事会がまとめた決議案は各政党に回され、党内の同意手続きを経て最終案が理事会で決定されます。
 政府の事業仕分けのように、議論の結果をその場にいる者によって即断即決することはありません。
 しかし、この決議や勧告は国会の常任委員会で議決され、法律に基づいた極めて重い「立法府の意志」として政府に申し渡されるのです。
 委員会決議は強制力を持つものではありませんが、政府は国会が示した意志にどう応えるのか、委員会に回答しなければならないのです。


◆ 政策評価を予算に反映させる

 今後の行政監視審査は、24年度予算審議が終了する来年 4 月過ぎから、決算審査と並行して本格審議に入る予定です。そして夏前にまとめる25年度予算の概算要求に反映させたいと考えています。
 行政監視の本来の目的は政府が行う予算編成に審議結果を反映させることにあります。それは、政府が導入した政策評価法という法律の目的と重なるものです。
 私は平成13年導入時の政策評価法を担当する総務省大臣政務官であり、行政事業レビューシートの原案は自分が主催する研究会で作成しました。10年後に決算行政監視委員長として、国会初の試みを実施することは、まさに因縁でもあります。
  2 日間の小委員会の最後は、これまた通常の委員会にはない、議員だけの総括討議を行いました。
 民主党委員から、「今までの委員会質疑でこれほど充実した質疑が出来たことはなかった。」との意見が出た時は、本当に嬉しく感じました。
 今回のことを踏まえ、さらに充実した審議が出来るように、そしてより良い政策・予算の実行に向け国会が十分な役割を果たせるよう、全力で取り組んで参ります。



 新 藤 義 孝