週刊新藤第231号 野田首相の韓国初訪問の成果?~何も要求できなかった首脳会談~

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野田首相は今回、朝鮮王朝儀軌を韓国に持参する必要があったのでしょうか?
ホームページには外務省の首脳会談報告と、私が独自に調べた韓国側報道記事を載せてありますので、ぜひご覧になってください。



◆ 順番を繰り上げて行った韓国訪問

 10月18・19日、野田首相は韓国を訪問しました。民主党が政権を担当して以来 2 年間、我が国の対韓国外交は、過去にとらわれた後ろ向きな配慮や、日本の主張を明確にしない譲歩外交が目立っています。
 竹島問題や慰安婦問題で断固とした姿勢を取り、抗議すべきは抗議した上で未来志向の日韓関係を作れるか、野田政権の手腕が問われる初の二国間外交となる訪問でした。
 前回の首脳訪問は、09年10月の鳩山首相の訪韓であり、本来ならば李明博大統領が来日する順番ですが、あえて日本側から申し入れて訪問することにしたのです。


◆ 「朝鮮王朝儀軌」を5冊持参

 今回、野田首相は日韓図書協定に基づき朝鮮王朝儀軌 5 冊を持参しました。昨年 8 月の日韓併合100年に関する謝罪談話で表明した朝鮮半島由来の「朝鮮王朝儀軌(ぎき)」1205冊を引き渡すための日韓図書協定に基づくものとの説明が政府からありました。

パネル:日韓図書協定に大きな疑問


◆ 問題だらけの日韓図書協定

 週刊新藤211号・221号でも指摘しましたが、日韓図書協定は多くの問題点があります。
 そもそも両国は1965年の日韓基本条約で財産や文化財の請求権を互いに放棄し、国家間の賠償問題は解決済みです。図書協定の締結は、過去の問題を蒸し返すことにつながりかねません。
 さらに韓国政府は、日本から持ち込まれた数万点もの貴重な歴史図書を所有していることが判明しておりますが、外務省は私が指摘するまでその事実を知らず、調べずに交渉していたのです。そして現在まで、日本文書の引き渡しは、政府間交渉の話題にすらなっておりません。
 図書協定の目的は「日韓相互の文化交流」であり、両国の未来関係の構築にあります。日本にある韓国文書を引き渡すだけでなく、韓国にある日本文書の引き渡しも求めなければ相互交流になりません。
 図書協定は日本のみが韓国に文書を提供する片務協定なのです。日本政府は国会審議の中で、過去を反省し図書を返還するのではなく、引き渡すものだと説明しましたが、韓国側の報道は一貫して儀軌返還です。
 自民党は最後まで反対しましたが、図書協定は 5 月27日国会で承認され、12月10日が引き渡し期限とされました。つまり、まだ引き渡す必要はないのです。

パネル:朝鮮王朝儀軌視察、儀軌返還記念宴会


◆ 竹島問題の暴走や慰安婦石碑問題

 現在も韓国はヘリポートや海洋科学基地など、竹島の施設建設工事を進め続けています。東日本大震災以降、 5 か月間で 6 人の閣僚が竹島を訪問し、5月には韓国国会議員が北方領土を訪れました。
  8 月の私たち日本の国会議員を法的根拠なく入国拒否したことについても、未だ全く回答がありません。
 日本大使館前にいわゆる慰安婦の石碑を建立するという民間団体の計画を、ソウル市当局が許可し、そこに韓国の保健福祉大臣が推奨文書を送るという事態も起きています。


◆ 自民党・領土合同部会での反対決議

 このような状況の中で、引き渡し期限前のいわくつき図書を、こともあろうに日本の首相がわざわざ持参する必要があるのでしょうか?
 自民党の領土・外交関係合同部会では、こうした観点から首相訪韓時の朝鮮王朝儀軌持参に反対する決議を行い、10月14日に私が代表して首相官邸に申し入れました。


◆ 首脳会談で取り上げるべき4課題

 しかし、首相は儀軌を持参することを決めたため、私は訪韓直前の領土等合同部会で次の 4 つの課題、
①韓国側に残る日本図書の引渡し
②竹島で行われている工事の中止
③私を含む 3 人の国会議員の入国禁 止措置に関する質問への回答
④日本大使館前の慰安婦の石碑建立 の中止
を首脳会談で取り上げるべきだ、と外務省に要求しました。


◆ 何も要求できなかった首脳会談

 野田首相は果たしてどこまで日本の主張を申し入れることが出来るのか?私は密かに、かつ、大いに期待しました。その結果は、
①韓国側に残る日本図書は、日本側からのアクセスの改善を要請したものの、引き渡しには触れず。
②③④竹島・入国禁止措置・慰安婦石碑各問題について全く触れず。
結局、何も要求できなかったのです。


◆ 感謝の言葉もなかった儀軌引き渡し

 しかも、国内の反対を押し切って持参した儀軌について、李明博大統領は一言も感謝やお礼の言葉を発せず、「韓日関係の未来関係のため象徴的な意味合いがある」旨(外務省資料原文)を述べただけでした。


◆ 日本は歴史問題の解決に積極努力

 さらに外務省の会談報告と私が独自に調べた韓国内の報道記事を対比すると、驚くべきことが明らかになります。
 韓国国内の報道では、李大統領は、歴史問題など「韓日両国間には障害物になっている懸案もある」とし、「このような問題はこれまで以上に、野田総理が誠意を持って積極的に臨むことを期待する」と強調した、とされています。
 ところが、外務省の資料には一切書かれておらず、そのことを追及した私に、外務省は記述が抜け落ちていることを認めました。


◆ 来日招請に対し、懸案解決後に行く

 野田首相は李大統領に対し国賓として招請を行い、外務省報告によれば両首脳は「出来るだけ早期の李明博大統領の訪日に合意した」(外務省資料原文)となっています。
 ところが韓国側報道では、李大統領は日本に「いつでも必要ならば行くことができる」としながらも、「韓日間の懸案があることが事実であり難しい点がある」と述べ、気軽に答礼訪問するという意向は表明しなかった、と書かれているのです。
 外務省の会談報告は、大統領発言の前半部分のみを記述し、後半部分はなぜか触れていないのです。


◆ 日本をどうするつもりか?民主党!

 野田首相自身は今回の首脳会談を「未来志向の日韓関係を推進する貴重な、大きな第一歩」と評価しているようですが、果たしてそうでしょうか? 
 民主党政権になって以来、竹島を不法占拠といわず、日本の基本的立場を表明するだけで、明確かつ具体的な抗議や、工事の中止を申し入れない状態が続いています。
 相手の嫌がることは取り上げず、謝罪談話を出し、渡す必要のない文化財を差し出し、法的解決済みのいわゆる慰安婦問題ではリップサービスのつもりが、相手に付け入るスキを与えてしまいました。
 ひたすらご機嫌をとりながら経済や拉致問題で協調行動を取ろうとする日本の意図を見透かしたかのように、韓国は図書を引き渡されても感謝の言葉一つ言わず、代わりに過去の問題について日本にもっと努力しろ、と言ってきます。そして、竹島では海洋科学基地の建設工事等がどんどんと進んでいるのです。
 対韓国だけでなく、中国やロシアに対しても然りです。外交安保に止まらず、経済交渉や環境問題交渉にしても一事が万事、日本は国際社会からいいようにあしらわれている気がしてなりません。一体、民主党政権は日本をどうするつもりなのか?
 私は危機感もって今の日本政府のの実態を皆様に伝えると共に、少しでも劣勢を挽回するべく必死に行動してまいります。



 新 藤 義 孝

※本文の関連資料・動画です。是非ご覧ください。

○国益に沿った日韓関係の改善を求める決議

○外務省資料(野田首相訪韓について)

○韓国側報道(聯合ニュース【2011年10月19日】:野田首相訪韓について)

○【動画・資料】外交・領土等合同部会<野田首相の韓国訪問について 外務省資料と韓国側報道の違いが明らかに>(2011年10月20日)

○【動画】外交・領土特命委合同会議<野田首相が訪韓する際、朝鮮王朝儀軌を持参することが決定した問題等について議論しました。>(2011年10月18日)

○【動画】「国益に沿った日韓関係の改善を求める決議」について官邸に申し入れ後のぶら下がり会見(2011年10月14日)

○【動画】外交部会・外交・経済連携調査会・領土に関する特命委員会合同会議<野田首相の訪韓にあわせた朝鮮王朝儀軌持参問題ほか、日韓外交・慰安婦問題等について議論しています。>(2011年10月13日)