第175号 いま、そこにある北朝鮮の脅威

 

0175-01.jpg◆ 北朝鮮の地下核実験

 北朝鮮は 4 月 5 日のミサイル発射に続き、5 月25日に地下核実験を実施しました。
 特に核実験については、①平成18年に出された国連安保理決議、②日朝平壌宣言、③ 6 者協議の共同声明、に明確に違反しており、我が国のみならず国際社会に対する重大な挑戦です。最近の核廃絶の動きに逆行するものであり、なし崩し的に核保有を認めることは絶対に許せません。


◆ ミサイル発射が意味するもの

 北朝鮮が「人工衛星」の打ち上げと称して発射したミサイルは、日本列島の上空を越え、ブースター部分の分離にも成功し、3000㎞以上飛翔したと推定されます。
 飛距離の延伸、搭載弾頭重量の増加(核弾頭の搭載が可能となる)等、北朝鮮のミサイル技術の進展は、迎撃をより難しくさせるものであり、日本への脅威は増していると考えられます。

 


0175-02.jpg◆ 核実験が意味するもの

 北朝鮮は、平成18年10月にも核実験を行っていますが、今回の実験の方が観測されたマグニチュードも大きく、核技術は明らかに進んでいると評価できます。
 そもそも北朝鮮が核を保有することによって、最大の脅威を受けるのは日本であると考えなければなりません。中国、ロシアは基本的に北朝鮮の友好国であり、韓国は同胞が住む国です。北朝鮮は、現時点では、米国本土まで届くミサイルは有しておらず、日本を射程に収めるノドン・ミサイルは200発以上保有していると言われています。
 拉致問題の解決の糸口も掴めず、6 者協議も頓挫している状況の中、北朝鮮は着実にミサイルや核の技術を高めており、北朝鮮が今後、我が国に対する恫喝の手段として核を用いることも否定できません。また、外貨獲得のため、北朝鮮が核やミサイル技術を世界的に拡散させていくことも懸念されています。


◆ 経済制裁の鍵となる「中国」

 現在、国連では安全保障理事会において、対北制裁決議の交渉が最終段階に入っており、制裁を実効性のある内容とするために、日本も精力的に運動を行っています。
 北朝鮮への制裁決議は、核、ミサイルに絡むモノの流れを封じることが目的で、金融・経済制裁や武器の禁輸に加え、北朝鮮船舶への貨物検査が検討されています。
 金融・経済制裁については、米国をはじめ国際社会と連携して対処することが必要であり、特に、中国をいかに制裁に強く関与させるかが鍵となります。
 私も国会で指摘しておりますが、我が国独自の経済制裁により、対北朝鮮輸入は2006年度以降ゼロであり、輸出も大幅に減少しています。ところが、日本との貿易が激減した分、中国と北朝鮮との貿易が増しているのです。
 中朝貿易は2000年に、日朝貿易の約1.1倍(4.5億ドル:4.9億ドル)であったのに対し、2008年には中朝貿易の額が飛躍的に増え、約350倍(日朝800万ドル:中朝27.9億ドル)となっている状況です。
 今や北朝鮮にとって、食料やエネルギーの供給、貿易、送金など、陸路での輸送が可能な中国との関係が、国の存立にとって極めて重要なものとなっているのです。


◆ 「船舶貨物検査新法」の必要性

 また、制裁決議には北朝鮮に出入港する船舶への貨物検査の義務化が盛り込まれる方向です。日本は米国と共にこのことを国連に訴えてきました。
 しかし、我が国の現行法では、公海上で貨物検査を行えるのは、犯罪捜査や日本の平和と安全に重要な影響を与える「周辺事態」か、武力攻撃を受けた場合にのみ限られております。
 そして政府は、現状を「周辺事態となったとはいえない」という立場をとっており、このままでは日本は「世界に船舶検査を訴えながら、自分は出来ない」という状態になってしまうのです。
 日本が貨物検査に参加するには、船舶検査活動法などの改正か、新法の制定が必要になります。
 私は、国連安保理決議で船舶検査が義務化された場合は、日本も責任を持ってこれに対応しなければならないと考えています。


◆ 新たなミサイル発射の兆候が?

 政府は安保理制裁決議の採択が行われた場合、北朝鮮が軍事的な挑発行為に出る可能性があるとみて警戒を強めています。
 弾道ミサイルが再発射された場合は、ミサイル防衛(MD)システムによる破壊措置命令を自衛隊に再び発令することになります。北朝鮮国内にすでにその兆候が見られており事態は予断を許さない状況です。
 私たちはここで現実の問題を認識する必要があります。MDシステムにより破壊するといっているのは、発射実験のための一発のミサイルです。MDシステムが何発までのミサイルに対応できるかは国防上の機密事項であり、明らかにされておりませんが、日本を射程に入れた北朝鮮のノドン・ミサイルは先ほど述べたように、すでに200発以上が配備済みといわれているのです。


◆ 国の平和と防衛を考えよう

 北朝鮮だけではなく、中国、ロシアなど我が国周辺の安全保障環境は刻々と変化し、現実の脅威が増大しています。私は国の平和と防衛という事柄について、もっと国民の皆さんに現状を説明し、必要な検討を進めるべきと強く感じております。
 もちろん、いたずらに防衛力を増強すればいいと考えているわけでもありません。国の平和を維持するのは一義的には外交です。防衛力は外交の補完力であり、政策実行のための実力手段です。
 平和憲法を遵守し専守防衛という国是を尊重しながらも、激しく変化する国際情勢に対応できる日本の防衛力を整備しなければなりません。
 まさにこのような時期に自民党の国防部会において、政府が年末に改定する「防衛計画の大綱」の提言がまとまりました。私もこの議論に参加し、意見を述べさせていただきました。皆様には今後この「週刊新藤」を通じ、我が国の防衛の課題を明らかにしていきたいと考えております。

新 藤 義 孝