第142号 農商工連携の促進について ~地域を元気にする新しい取組み~



担い手不足による遊休農地の解消を目指し、地域に合う農産物の研究、農業の実践、普及を目指す。 [写真提供 NPO法人えがおつなげて]

 
私は現在、経済産業副大臣を務めておりますが、自らに課せられた最大のテーマは何よりも我が国経済の活性化だと考えています。
 日本の少子高齢化の流れは、今後50年間変わりません。厚生労働省の推計では、2030年には労働力人口が約1000万人減少すると報告されました。こ
のまま有効な策を打たずに労働力が減れば当然に生産額が減少し、人口減少は消費購買力の低下を招きます。私達の国が経済成長を続けるためには、技術革新に
よる労働生産性を高めることと、新しい成長分野を開発していくことが必須です。経済産業省はまさにこのことを担当しているのです。
 そこで今号では、かねてより私の持論でもあり、経産省が来年度予算の目玉として打ち出した「農商工連携」について皆様にご紹介させていただきます。


可能性を秘めた地域産業~農業~

 
日本の食料自給率が4割を切っていることは極めて憂慮すべきことですが、一方で我が国は農業人口が200万人を超える農業国でもあります。そして農林水産
業はその9割が地方にあって、いわば地域経済の基盤産業です。このため、地域を元気にするためには、農林水産業を元気にすることが必要です。我が国の農業
は、縄文時代から始まる最も古い産業ですが、現在は、都市化の波や後継者難により弱体化が指摘されています。しかし裏を返せば最も成長の可能性を秘めた産
業とも言える訳です。このポテンシャルを引き出す鍵を握るのが、世界最先端の技術やノウハウをもつ我が国の製造業や流通業ではないかと考えています。農商
工連携とは、従来の農業に IT
や新技術を導入し、商品販売ノウハウや学術的な分析を加えることで、これまでとは違う競争力を与えようとするものです。



夢の実現を予感させる事例

  すでに成功した事例も出てきています。仙台市の建設業者は建設需要の低迷をきっかけに、ワサビ事業に参入し売り上げを伸ばしています。
 まずワサビの生産は、80アールの休耕田を活用し、地元の10戸の農家に管理を委託しています。生産面では、岐阜県の企業が持つ特許を活用しました。田
んぼに砂利を敷き詰め、その上に1メートル四方のプラスチック・ボックスを置き、1ボックス当たり16本のワサビを植え、根元に直接水をかけるという従来
のワサビ畑にはない新しい栽培方法です。この農と工が連携した新技術は、①自然災害の影響を受けにくい、②ワサビの成長が早い、③品質のばらつきが少な
い、④コストが通常のワサビ畑に比べて5分の1といったメリットをもたらしました。
 次に、商との連携として、老舗かまぼこ店と連携し、最高級笹かまぼこと組み合わせたギフトセットを売り出しました。さらに、学との連携として、地元東北
大学農学部教授から食品成分分析や技術指導を受け、消費者の「健康志向」ニーズをとらえてワサビが健康に良いことをPRしています。こうした農・商・工・
学との連携により、新事業を成功させたのです。



経済産業省と農林水産省の連携

 
このような産業連携による取り組みは、徐々にではありますが、着実に増えつつあります。北海道のある酪農牧場では、一家総出で1回が4時間、1日2回で8
時間かかっていた牛の餌やりが、IT技術を導入した自動給餌装置により、何と1回15分でしかも無人で出来るようになり、牧場経営が飛躍的に向上した例
や、農村と都会をつなぎ、農村の産直レストランに都会の若者を呼び込み、担い手不足の解消と就業あっせんを支援するNPO法人等々、代表的な成功例もあり
ます。
 国として農商工連携の必要性を訴えていくためには、省庁間でもしっかりと連携することが必要という思いから、11月6日に経済産業省と農林水産省が共同
で「『農商工連携』促進等による地域経済活性化の取組について」という政策パッケージを発表しました。
 この政策パッケージでは、百貨店やチェーンストアに地域産品を積極的に扱うことを要請するキャンペーンや農商工連携88選の作成など、すぐ実行出来るこ
とから着手することにしています。また、来年度予算要求には、地域の農産品と伝統工芸品等をまるごとブランド化して内外マーケットを開拓することを支援す
る事業、農業者がIT経営を進めていくための応援隊、ジェトロ(日本貿易振興機構)を活用した輸出促進など多彩なメニューを盛り込んでいます。



アイデアとチャンスはどの地域にも

 
この農商工連携の促進は経済産業省と農林水産省が連携した非常に画期的な取組です。これまで産業は経産省、農業は農水省と縦割りになっていましたが、福田
内閣では垣根を取り払い、一体的に取り組んでいくことにしました。これは参院選の争点にもなった農業の再生に向けた実践的な取組であり、保護産業化した農
業から競争力のある自立した産業へと転換させるきっかけにもなると私は大いに期待しています。
 また、地域産業である農業の活性化は、福田内閣の至上命題である地域経済活性化にもつながります。各々の地域特性や農業形態に合わせた様々なアイデアを
活かせば、独自の魅力を持った地域経済が確立出来ることになります。
 私達の街、川口・鳩ヶ谷地域の地場産業である花・苗木栽培や軟化蔬菜などの農業、植木や造園業など独自の技術を持つ産業についても、農商工連携により新
事業が展開出来れば、それは我が街の活性化につながります。地元の青年農業団体の皆さんと何か良いアイデアはないかと研究しているところです。
 将来が不安視される日本の農業を農商工連携により新しい成長分野に転換出来れば、我が国の将来に明るい希望をもたらすことができると考えております。始
めたばかりのこの新しい政策の推進に向けて、一生懸命に取り組んで参ります。

新 藤 義 孝