第131号 島国から海洋国家へ 「海洋基本法」の制定について



 前回の「地理空間情報活用推進基本法案」に引き続き、今号も国家基盤を整える重要な法律を皆様にご紹介させていただきます。「海洋基本法」は議員立法として国会に提出され、4月20日成立いたしました。私は、自民党の海洋政策特別委員会・副委員長としてこの法案に関わって参りました。


◆ 日本は世界で6位の大きさ?

 わが国は四方を海に囲まれ、大小6,800もの島々によって成り立っています。東洋の小さな島国と呼ぶ人がおりますが、確かに国土面積は世界192カ国
中60番目です。しかし、人口は10位であり、海岸線距離では世界6位、EEZ(排他的経済水域)の面積は国土の12倍となり、陸と海の合計面積では世界
で6位となる広大な領域を有することになるのです。
 そして、島国であり資源のないわが国は、外国との貿易・交流が生命線です。エネルギーの93%、食料の60%を海外に依存し、輸出入貨物の取扱量は99%が海上輸送に頼っています。海洋の安全を確保することが、国の死活的重要事項となっているのです。
 また、わが国と周辺諸国との主要な国際問題は、全て海洋がらみです。中国との東シナ海のガス田開発・尖閣諸島問題、台湾との漁業問題、韓国との竹島領有・漁業問題、ロシアとの北方領土・漁業問題等、いずれもわが国の権益に大きな影響を及ぼす重大な問題です。
 さらに、海底資源はまだ未開発のものが多く、石油・天然ガスに加えメタンハイドレードや海底鉱物資源の開発は、国の未来を拓く重要戦略分野であり、積極的な取り組みが期待されています。


◆ 縦割りでバラバラな海洋政策

 ところがわが国では、海洋政策の所管は8省庁に分かれ、漁業は農水省、資源開発は経産省、港湾整備は国交省という具合にそれぞれ別個に担当しています。
有事の際の海上自衛隊と海上保安庁の役割も明確とは言えず、わが国の最大領域である海洋の統合的な政策立案と管理体制の構築は、国家的課題だったのです。
 国際社会では1994年に国連海洋法条約が発効し、わが国も1996年に条約締約国となっています。この条約により、沿岸12カイリの領海と200カイ
リのEEZをその国の管理海域とすることが認められ、海洋の保護と有効利用が図られることとなりました。中国や韓国などは海洋問題の主管官庁を設立し、海
洋に係る国内法の整備をいち早く行いました。ガス田開発や海洋調査は海洋法条約や国内法を根拠に自国の主張を行っているのです。
 一方、わが国においては、国際条約を締結したものの、基本法をはじめ国内法の整備が行われておらず、統括する大臣も省庁もないという実に残念な状態だったのです。
 私たちは、まず自民党の平成19年の活動方針として海洋基本法を制定するということを年初の党大会で発表し、政治の強い意志でこの問題を進めていくというメッセージを出しました。
 そして、党内の海洋政策特別委員で法案の作成、関係省庁との協議をおこないました。この原案を基に、公明党との政策協議を行い、さらには民主党内のこの
問題に関心を持つ議員との協議を進め、最終的には自公民による3党提案の議員立法として今国会に提出することになったのです。


◆ 海洋基本法の制定

 今国会で成立した海洋基本法では、首相を本部長とする「総合海洋政策本部」を設置し、さらに「海洋政策担当大臣」を新設し、海洋に関する政策を統括することとなりました。総合海洋政策本部は、海洋政策の司令塔として各省庁との総合調整を行い、海洋大臣は同本部の副本部長として首相を補佐します。
 また、政府は長期的かつ計画的な海洋政策を推進するため、海洋政策基本計画を策定することを義務づけ、海洋資源開発の推進、海洋環境保全、海洋調査の推進など、12項目にわたる国の基本的施策を明記しました。
 同時に、海底資源開発に対する外国などの妨害を排除するための「海洋構築物安全水域設定法」
成立し、わが国EEZ内の海洋資源の調査・試掘の際に半径500mの立ち入り禁止区域を設定することができるようになりました。これにより、例えば東シナ
海の日本のEEZ内で、民間企業によるガス田の試掘作業が中国側から妨害された場合、海上保安庁がそれを排除するための根拠が設定できたのです。
 日中の東シナ海ガス田協議は、海洋2法の成立で両国の法制が同等になり、中国との交渉を進める上で有効な環境が整ったと思います。


◆ 島国から海洋国家へ

 本法律は自民・公明・民主3党による超党派の議員立法であり、政・学・官・民が熱心に議論を重ねて条文化したものです。8省庁が関係し政府として調整で
きなかった国家的課題を、政治のリーダーシップによって法制化した意義は大きなものがあり、私もこの作業に参画できたことを光栄に思っております。
 
今後はこの基本法を活かし、さらに具体的な個別法の整備や、予算の裏付けを与えていかなくてはなりません。特に、安全保障や航路(シーレーン)の安全確
保、資源開発や海洋調査など、国益に直結した戦略的な分野を統合的に推進していく必要があります。安倍首相を中心に、政治が先導的な役割を果たすことは言
うまでもありません。
 この機会に、私たち日本人は四面環海の中で海の恵みを受け、海洋国家として存続してきたということを再認識したいと思います。そして、世界規模で進行中
の海洋の法秩序と政策転換に対応し、日本を東洋の島国から世界の中の海洋国家に脱皮させる時だと私は考えています。

新 藤 義 孝