第127号 神社が伝えるもの ~日本人の心とは


 皆さんは今年、初詣に行かれましたか? 今の時期には、受験の合格祈願に神社に参拝する人も多いことでしょう。
 日本人には古来、自然・祖先を崇拝対象とする信仰があり、それが風土の神に結びついて、様々な神々が伝承されてきました。神社は、古くから神のヤシロ、
神のモリといい、ヤシロは屋代(やしろ)、宮代(みやしろ)の意味で、社殿そのものではなく、祭祀にあたって神を迎える聖地を意味していました。
 6世紀に仏教が日本に伝わり寺院の建築様式も入ってくると、神の鎮まる社殿が建てられるようになりました。平安時代末以降に武士勢力が台頭してくると、
その祈願によって多くの神社が創建されるようになりました。川口市では、峯の峯ヶ岡八幡神社、東貝塚の若宮八幡社、根岸の春日神社がこの時代の創建と言い
伝えられています。
 大宮氷川神社を本社として分祀勧請した氷川神社は、東京や神奈川にも及んで230社を数えますが、最も多い埼玉県には162社あります。川口市には18
社、鳩ヶ谷市には2社がありますが、そのうちの一つ、青木氷川神社(川口市青木5-18-48)の宮司を務める鈴木邦房さんに「日本人の心」「日本再生」
という趣旨のとても興味深いお話を聞くことが出来ました。


よみがえれ日本

「蘇る(よみがえる)」という言葉があります。これは「古事記」の中に出てくる、黄泉(よみ)の国(死者の世界)へ行った伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が生還したという神話に由来するもので、「黄泉かえる」ということが語源なのです。
 今、日本は疲れて果てているように見えます。戦後の高度成長である程度の富を得た一方で、その代償として、「個人の自由とわがままのはき違え」「モラル
の欠如したご都合主義」「未来に希望を持てない若者たち」等々を生んでしまい、現代の日本人は大切な心を見失なっしまいました。今こそこの麗しき日本をよ
みがえらせ、そして、死のフチから立ち返らせなくてはなりません。そのためにはどうしたら良いのでしょうか。そのヒントは「全国に八萬社点在する神社」の
中にあります。あなたも神社を訪れて一緒に日本の再生を目指して歩き始めませんか。
 日本再生のための第一歩は、何よりもまず日本の国柄の意味を知ることです。日本は「大和の国」です。「大和魂」を私たちは持っています。「やまと」とい
う言葉を先人はどのような考えで発想したのでしょうか。私たちの先祖がなぜ「大和」という漢字を当てたのかを考えると、先人の願いが見えてきます。あらた
めて「和」という漢字を調べますと、「やわらぐ・おだやかになる・なごやかになる」等の意味があります。大和の国の先人は、一人ひとりの「和」が国全体を
包み込む「大きな和」になって欲しいとの願いを込めてこの漢字をあてたのです。まずはこうして日本の国柄の意味を知り、民族に誇りを持ち、先人に思いを馳
せ「仲良く力を合わせ生きていく国」という自覚をあらためて持つことが日本再生の第一歩となります。


◆「感謝の気持ち」を忘れずに

 二歩目は私たちの心の持ち方です。各宗教の根底にある概念を一言でいえば、仏教であれば「慈悲」、キリスト教であれば「愛」と表すことがでるでしょう。それでは、わが国の「神道」ではどういう言葉で表現されてきたのでしょうか。それは「感謝」という一語に尽きるのです。
 先人は、自然という漢字に「カミ」と振り仮名を付けてきました。ゆえに自然は、大いなる恵みであり、脅威や畏怖の対象でもあるのです。人の力では超える
ことのできない大いなる力、これが「自然」であり「神」という捉え方をしてきました。これは、古代も現代も全く変わるものではありません。大いなる恵みを
与えてくれる「自然」「神」への感謝の心をあらためて自覚することが「日本再生の心」なのです。生きとし生けるものが、すべからく恩恵をいただく「天の恵
み(太陽・雨等)」そして「地の恵み(米・農作物等)」。更には欠くことができない、先祖、親を始めとする、「人と人とのお陰様」。こんな日常の感謝を忘
れてはいませんか。この心を取り戻しさえすれば、謙虚に生きることができ、思いやりのある日本人が「よみがえる」のです。これが「日本再生」のための第二
歩です。


◆「元の気」を取り戻す

 第三歩は、個人の元気回復をはかることです。つまり「元気に生きるヒント」の話
です。人生には悩みもあれば悲しみや怒りもあります。しかし、不安な日々が続いたり、悲しんでばかりの毎日では気が滅入るばかりで決して良い方向には進み
ません。「病は気から」ですから、すぐに病気になってしまうのです。昔の日本人はこのような気の衰えを「気が枯れる」と表現し、「気枯れ」すなわち「ケガ
レ」としてきました。そしてそれを除去するために「禊ぎ」や、「祓い」をしてまいりました。塩や水を撒いたり、神社にお参りするのもひとつの方法です。そ
の結果、人は充実した「元の気」に戻ることができます。そうです「元の」「気」と書いて「元気」と読むのです。「気」というものは「湯気(ゆげ)」のよう
なもので、些細なことによっても影響を受けるものです。そんな時は近くの神社やお寺に詣でて、いち早く「元の気」に戻して下さい。
 いろいろ述べさせていただきましたが、今の疲れた日本を回復させるのは、私たち自身なのです。今こそ古来より日本に伝わる大和魂の真の意味を自覚し(第
一歩)、感謝の気持ちを忘れずに(第二歩)、充実した元の気に戻して(第三歩)「元気な日本」を再生させていきましょう。


◆ 神社が伝えるもの

 今回お話を伺った鈴木宮司さんは「皆さんが忘れかけている大切な心が、神社の杜(もり)の奥に宿っています」と語っていました。
「社で会うと書いて「社会」となります。昔は、神社のお祭りで「顔合わせ」をし、長老から「正悪善邪」を教えられ、「秩序」を学んだのです。神社は大切な「コミュニティー」の場だったのです」とも伺いました。
 鈴木宮司さんは神職を務めながら著名な芸術家・文化人(安藤忠雄・さだまさし・鳳蘭・野村耕介等々)と対談を行ったり、ラジオ出演や講演を行うなど独自
の活動をされている方です。中でも画家の横尾忠則さんと親交が深く、青木氷川神社の社務所には、何と横尾さんの手による200号の奉納画が飾られておりま
す。
 今号では、私たちの暮らしの身近にある神社の意義について皆様にご紹介させていただきました。

新 藤 義 孝