第110号 教育基本法の改正審議に想う ~私たちの国の未来のために~


 通常国会は6月18日に閉幕いたしました。小泉内閣の5年にわたる構造改革の総仕上げとして、様々な重要法案が審議されておりましたが、大方の予想に反
し国会の会期延長が行われなかったため、積み残しになってしまった大事な法案があります。今号では教育基本法の改正案審議について皆様にご報告したいと思
います。


◆ 今なぜ教育基本法の改正か

 現行の教育基本法は、昭和22年3月に、戦後の教育の基本を確立するためにつくられた、いわば「教育の憲法」です。「個人の尊厳」の尊重などの教育の基
本理念を規定するとともに、教育の機会均等や義務教育の無償などを規定し、戦後の教育の普及と水準の向上に寄与してきました。しかし、一度も改正されない
まま制定から既に60年近くが経過し、その見直しは時代の要請であり国家としての最重要課題です。今回私たち政府・与党が提出した改正案の内容はどのよう
なものなのか、そのポイントを2つ挙げてご紹介します。


① 豊かな人間性、社会性を備えた日本人の育成

 戦後の教育の中では、個人の自由や個性が強調されるのに対し、規律や責任、他人との協調や社会への貢献など道徳心や公共心、日本人としての意識を育てる
ことはややもすれば軽んじられてきました。これらは、かつて日本人であれば当然備えていたものでありますが、急速に失われてきています。したがって今回の
法案においては、現行法における「個人の尊厳」の尊重などの理念に加え、新たに「豊かな情操と道徳心」「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画
し、その発展に寄与する態度」「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度」「伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する
とともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度」などを養うことを盛り込み、教育現場での取り組みを推進することとしたのです。


◆ ② 社会全体の教育力の強化

 現行の教育基本法は、学校教育、しかも義務教育、公立学校教育を中心に規定していますが、学校教育、社会教育、家庭教育を通じ、多様な分野にわたる社会
全体の教育力を高める必要があります。このような観点から、改正案においては、まず、「生涯学習の理念」を規定し、生涯にわたり、あらゆる場所、あらゆる
機会において学習できる社会の実現をめざすべきことを明らかにしています。また、新たに重要な分野として「家庭教育」、「幼児期の教育」、「大学」、「私
立学校」などについての規定を設けています。特に、「家庭教育」については、保護者が子の教育にとって第一義的責任を負うことを明らかにし、国や地方公共
団体が家庭教育を支援すべきことを規定しています。また、「学校、家庭、地域住民等の相互の連携協力」の必要についての規定も新たに盛り込んでいます。


◆ 戦後教育の盲点を正す

 政府・与党改正案のポイントをご説明しましたが、ここまでお読みいただいて皆さまはどんな感じをもたれましたか。「道徳心」「公共の精神」「国と郷土を
愛すること」「生涯学習」「私学教育」「家庭教育」等は新しい考え方なのでしょうか。私たちが日本人として当たり前に考え大切にしている概念が60年前の
法律には書き込まれていなかった、ということにお気づきになると思います。これらが法律に書かれていない、ということを理由に教育現場で意図的に教えられ
なかったことがあります。一方で、日教組などの一部は現行法にある「教育は支配を受けてはならず、直接行わなければならない」という条文の一部を引用解釈
し、それを根拠に文部科学省や教育委員会の指導を受けなくてもよいこととし、教育現場の最大の混乱をもたらしました。
 今回の教育基本法の全面改正は、こうしたこれまでの法律に書いてないから教えない・書かれているからやらない、という戦後教育のいわば盲点を改善し、望ましいわが国の教育のあり方を示すためのものだと私は考えています。


◆ 次期国会での成立を期して

 民主党の改正案について少し触れさせていただきます。基本的な内容に大きな差異はありません。ただ法律案の名称が「日本国教育基本法」となっており、わ
が国の法律で「日本国」とついているのは憲法だけです。これにはさすがに民主党議員の中からも何か他の意図があるのではないか、削除すべきだとの意見が出
ていました。
 焦点となった「愛国心」は、民主党案では前文のみに記述があります。肝心の法律の本文中には教育の理念についての条文そのものが無く、本文中に愛国心に
ついて触れられている部分は無いのです。法案審議の与野党交渉を行った国会対策委員会の仲間から聞いた話しですが、小沢党首は愛国心をめぐる民主党内の論
争の際、「この法案は成立させられるのか?出来ないのなら内容は自民党が最も困る内容にするべきだ。」とおっしゃったそうです。永田町に漂う政局の匂いが
して、私はとても気になりました。
 いずれにしても教育基本法改正案は次期国会に継続審議となっており、小泉総理の次の首相の下で成立を期すことになります。この国の宝である子供たちを
まっすぐに正しく育てるために、私たち国会議員は責任と自覚を持って政策論議を深め、必ず成立させなければならないと心に決めております。

新 藤 義 孝