第89号 少子化対策と幼児教育の無償化


◆ 少子化対策をどうするか?

 昨年のわが国の出生数は106万7,000人。死亡数を約1万人下回っています。戦後すぐの第1次ベビーブーム期(1947~49年)の出生数は約
270万人、1970年第前半の第2次ベビーブーム期には200万人。しかし、これをピークに出生数は減少を続け、現在の人口減の主たる要因となっていま
す。1人の女性が生涯に産む子どもの数は、戦後4人以上あったのが、昨年には1.26人にまで低下しています。
 国の社会保障給付費全体に占める高齢者関係の給付費は全体の約70%に上る一方で、保育所運営費や児童手当、児童扶養手当など児童・家族関係給付費の割
合は4%程度しかありません。年金受給者の増大、老人医療費や介護給付費の増大で高齢者関係給付費が増大するのはやむを得ないとしても、ヨーロッパ諸国の
社会保障給付の対象者別構成割合を見ても、日本の場合には高齢者給付に偏っているということが言えます。少子化の流れを変えるためにも、大きな比重を占め
ている高齢者関係給付を見直し、これを支える若い世代や将来世代の負担増を抑え、少子化社会対策に関する施策を充実させる必要があります。


◆ 子育て費用の負担軽減を考える

 少子化に歯止めをかけるために、最も要望が高いもののひとつに「子育てに対する経済的支援を充実させること」があげられます。子どもが乳幼児期にある場
合、親の年齢は比較的若く世帯収入も相対的に低いため、子育て費用は経済的な負担感を生じさせています。2005年度「少子化社会白書」を参考に、実際に
子育て世帯ではどのくらいの費用がかかっているのか、また、それに対する有効な支援策は何か考えてみたいと思います。

 乳幼児期の子育て費用について、妊娠・出産費用の平均額は約50万円、0歳~3歳の子育て費用は各年50万円前後、4歳から6歳までは各年65万円前後
となっており、これらを合計すると子どもが生まれてから小学校にあがるまでの子育て費用は、約440万円かかっています。
 とりわけ大きいのが「幼稚園・保育園関係費」です。0歳児保育を利用すると、保育所の保護者負担は月額約3万5千円(年額42万円)かかります。3歳児
以降でも、月額2万5千円(年額30万円)前後の保育料が必要です。もし、子どもが同時期に2人保育所を利用していれば、保育料の負担はさらに重くなりま
す。
 幼稚園の場合には、公立幼稚園であれば月額6千円(年額7万2千円)程度の保護者負担ですが、全幼稚園児の8割を占める私立幼稚園の場合には月額2万5
千円(年額30万円)程度の負担が必要となります。保育料や幼稚園費の軽減や児童手当の引上げなどの経済的支援への対策は、切実な課題です。
 こうした経済的負担に対して現在講じられている公的な支援策には、下の表のようなのものがあります。このうち、医療保険における3歳未満の乳幼児の一部
負担金については、多くの地方自治体が地方単独事業として自己負担分を助成しています。また、子どもが保育所を利用する場合、保護者が負担する保育料以外
は、国や都道府県または市町村の負担で賄われています。たとえば、ゼロ歳児であれば、1人あたり月額約16万円の経費がかかり、約3.5万円の保護者負担
以外の約12.4万円は、国及び地方自治体の負担となっています。


◆ 幼稚園が義務教育課!?

 正月の新聞報道では、「政府・与党が義務教育に幼稚園などの幼児教育を加える方針を固めた」という記事が掲載され、多くの方の目を引いたことと思いま
す。私も文部科学省に確認をとりましたが、政府としてこうした方針を固めた事実はなく、昨年の自民党政権公約の中で、「幼児教育を国家戦略として展開-保
育園・幼稚園の幼児教育機能の充実を図るとともに、幼児教育の無償化を目指す」ことが記されており、このことが混同されたものだと思われます。しかしいず
れにせよ、小中学校教育と合わせ、幼児教育も無償化されれば、若い子育て世代の経済的負担は大幅に軽減されることは間違いありません。
 今や少子化対策の充実は、この国の未来がかかっています。実効性のある、わかりやすい政策立案が求められているのです。

新 藤 義 孝