第41号 憲法は改正できるのか?

[自由な憲法論議を目指して]

 本年は戦後60年目。人間で言えば還暦にあたるまさに節目の年です。私は、地域に根付いた活動を大切に続けながら、この国全体をしっかりと見据え、私たちの国の進路を見定める1年にしたいと決意を新たにしております。

 私が国政に携わって以来、ずっと取り組んできた最大のテーマが日本国憲法の問題です。我が国法体系の根本をなし、国のあり方と私たちの暮らしの指針を示す憲法について千思万考することは国会議員の責務と心得て参りました。

 ほんの10年ほど前まで、わが国では閣僚が改憲の必要性を口にしただけで野党やメディアなどから非難の声があがり、場合によっては罷免を要求されると
いった政治的状況が続いていました。そうした世相を疑問視していた私は、衆議院議員初当選の翌1997年に設立された超党派の「憲法調査委員会設置推進議
員連盟」に参加し、「国権の最高機関である国会において、党派を超え全国民的立場で憲法論議を真摯に展開していくことは、政治家に課せられた最大の使命だ」
いうことを、仲間とともに強く主張して参りました。おかげ様で、2年後の1999年通常国会において国会法改正修正案が可決・成立し、衆参両院に憲法調査
会が設置され、正式な議論が始まりました。私も、2001年には衆議院憲法調査会の幹事に就任し、調査研究に邁進しました。

 
「自主憲法の制定」を党是として掲げる自民党は、結党50年を迎える今年11月をめどに憲法改正草案を策定することを表明しました。改憲論議はいよいよ高
まり、今年はさらに加速していくことでしょう。このように憲法について自由に語り合える状況を迎えられたことを、私は非常に嬉しく思っています。

[現行憲法の成り立ちを考える]

 59歳を迎えた私たちの憲法。その誕生当時には想定すらされなかった現代の社会状況の中で、現実との乖離(かいり)が生じてきているのは否定できない事
実です。もとより、刑法であれ民法であれ、全ての法律は時代の変化に応じ常に内容を適合させていくことは当然のことなのです。なぜ憲法の改正だけが、長い
間タブー視され続けてきたのでしょうか? ここで簡単に現行憲法の成立過程を振り返ってみます。

 1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し、太平洋戦争は終結しました。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は、ポツダム宣言や被占領国の法
律を尊重することを定めたハーグ陸戦条約に即して、日本が大日本帝国憲法を改正するように要請。マッカーサーから憲法の改正を指示された当時の幣原内閣
は、松本国務大臣を委員長とする憲法問題調査委員会を設置し、改正案作りにとりかかったのです。

 
ところが、1946年2月1日、憲法問題調査委員会が作成した日本側草案がマッカーサーに報告される前に毎日新聞にスクープされ、そのあまりに保守的な内
容に驚いたGHQのホイットニー民政局長は、総司令部に政府案が提出される前に憲法改正の指針を与えるべきだとマッカーサーに示唆したのです。2月3日、
マッカーサーはGHQ民政局に命じて憲法草案を作成するよう指示。いわゆるマッカーサー3原則(象徴天皇・戦争放棄・封建制度廃止)に基づき、実務責任者
だったケーディス陸軍大佐の下で秘密裏に草案作りが行われ、2月10日にGHQ草案が脱稿されました。2月8日、何も知らない日本政府は改正案をGHQに
提出。GHQはこれをとりあえず受け取ったものの、2月13日には日本政府に政府案の拒否を告げると同時にGHQ草案を渡しました。

 結局、このわずか1週間で英語で作成された草案が、現在の日本国憲法となったのです。その後の成立過程は旧憲法の正規の手続きに従ったものではありますが、やはりその経緯において「わが国国民の自主的な民意に基づくもの」とは言えないと私は考えています。

[諸外国の憲法改正状況に比して]

 もちろん、現行憲法に盛り込まれた国民主権・基本的人権の尊重・戦争放棄などの基本原則が、戦後の民主主義を確立し日本の発展の基盤として大きな役割を
果たしたことは間違いのないことであり、私もその精神は高く評価しております。しかし、軍国主義の復活を怖れるあまり、必要以上に憲法を神聖視してしまう
風潮が生じたのも、また確かなのです。

 上記の表に示したように、どの国においても時代の要請に応じて憲法は度々改正されています。私たちの憲法は、59年にもわたり一言一句の改正もなされていないという意味において、現存する世界最古の憲法となってしまっているのです。憲法改正は、国際的に見ても常識的かつ必要な措置であり、それは私たち国民の自発的な自由意思に基づき取り組まれるべきものなのです。

 私は、今後の「週刊新藤」において、憲法論議の争点となっている安全保障や国際協力の問題、公と個人の権利や、国と地方との関係、私学助成問題に加え環境権などの新たな権利も含め、個別の事項について各々提言させていただきたいと考えています。

 そして、まず何よりも憲法論議自体を活性化させ、広く皆様に知っていただくことを今の私に課せられた責務と考え、多くの方々と意見を交えていきたいと思っています。

新 藤 義 孝