特定化学物質の排出量の把握・管理の改善に関する法律案(質疑)衆議院商工委員会-12号 1999年5月14日

特定化学物質の排出量の把握・管理の改善に関する法律案(質疑)

145-衆-商工委員会-12号 1999年05月14日


 

○新藤委員 自由民主党の新藤義孝でございます。
 今ちょっと頭が混乱しておりまして、四人の専門の方から大変にそれぞれ意義ある御意見をいただいたわけでございます。順次質問させていただきますが、私も専門ではございませんので、もし言葉の言い違い等があったら、しんしゃくしてお酌み取りいただければありがたい、このように思っております。
 そもそも化学の物質の分野でございますから、なぜそれが商工なんだ、こういう話があるわけなんですが、私は、これからの産業活動というのは、環境にどう適応させていくか、それをどう産業活動に取り込んでいくかということが最も大事なことである、それが世の中を便利にすることである、生活の利便性を向上するとともに、やはりそれが生活の一番根幹をなすところになるだろう、こういう観点で、これはもうぜひ私どもで取り組んでいこう、このように思っております。
 しかも、いろいろ資料を調べますと、化学物質と言われるものが世界じゅうに千八百万種もあって、我が国では五万から十万種のものがある、そして、年々数千種ずつふえていっているんだ、こういうような、もちろん、我々の周りは全部化学物質で囲まれているわけなんでございます。しかし、それに対して、規制をすべき化学物質というのは数十物質しかない。それ以外のものについては、どこで何が使われているのかわからない。私は、これは本当に不思議なぐらい、今一体日本で、いい悪いではなくて、化学物質と言われるようなものがどれぐらい使われているのかというのを把握していないこと自体が不思議だったなと、私たちの世代から言わせていただくと。だから、これは非常に意義あることだろう。しかも今回のは、規制に至らない化学物質を、その排出量を把握するとともに管理の改善をするんだ、まさにここに私は今回の法律のコンセプトがあるのではないか、こういうふうに思うわけなんでございます。
 ちょっと時間がございませんので、そういう中で、これはもうぜひ推進すべきという観点から、各参考人の先生方にお話を聞かせていただきたいと思います。
 まず、産業界で中心となってお取り組みをいただきました寺門参考人さんにお尋ねをいたします。今回の案でいきますと、PRTRの実施が、二〇〇一年の排出量を二〇〇二年の夏までに届け出よというのが一番早いスタートかな、こういうふうに思うのでございます。二年半です。しかし、これは全然今までそういうことを考えずにやっていた産業者が、特に中小企業者がこれに対応していくというのは、届け出事務の手続から、化学物質の計量、推計、そういう作業をしていかなければいかぬ。これはかなり負担がかかるのかなという気がするのですが、それについて産業界としてはどんな要望があるか、この制度の実施に際しての産業界からの要望があれば、お聞かせいただきたいと思います。
 それと、さらに、インターネットの活用、私は、こういうものはもうどんどん電子申請をすべきだと思っておりまして、各事業所が共通フォーマットのもとで、例えば、インターネットを使うと自動計算してくれますとか、数量をこことここに入れれば自分たちで計算しなくてもコンピューターが計算してくれる、そういうソフトを国が無料でフリーダウンロードしてあげればいいのですね。それで、事業者にこれを使ってくださいと、そうすれば、国の方も一発で計量できてしまうわけですから、そんなようなことを使った方がいいのではないかと思っておりますが、産業界でそんな意見があるのかどうなのか、ちょっと状況を教えていただきたいと思います。
 さらには、データの取り扱いでございますが、住民、関係者との理解を深めるというリスクコミュニケーション、これはよその国の法律では入っていない規定だそうでございますね。ですから、こういう新しいリスクコミュニケーション、まさに企業の自主的な取り組みを促すんだ、こういう観点で入れたということなんですが、この辺、実際、事業者とリスクコミュニケーションとの責務の関係はどんなふうにお考えになるかということを、あわせてお尋ねをしたいと思います。
 それと、届け出だけじゃなくて、今度は情報公開のときもインターネットを使った方がいい、行って来いでやった方がいいなと思っているのですけれども、その辺も産業界での御意見があれば、お聞かせいただきたいと思います。

○寺門参考人 今三点ほどの御質問がございました。
 最初に、二〇〇二年の夏にデータが出てくる、その期間にどんな努力が要るのかということだと存じますが、一昨年、私どもは自主的なPRTRをやったわけですが、先ほどもお話があったように、それは大企業だけじゃないのかというお話もあったわけでありますが、それでもなお大変努力が要るわけでございます。
 実際にデータをとるマニュアルといいましょうか、そういうものを決めて、そして、各発生のプロセスに応じたマニュアルというものを一つずつつくり上げて、そこから出るデータをサムアップして、それで正しいかどうか、そういうものをつくり上げていって、初めてそのデータが最終的にまとまってくるわけでございます。
 中小企業の方々にとりましては、それぞれの企業によりましてやっている作業の内容が大変違いますから、それにマッチするように自分たちで考えていかないとできないわけでございます。そういう意味では、十分なマニュアルというものをつくって、その理解活動というものを進めていくということが必要であるわけでございますので、二〇〇二年に百点満点がとれるかということになりますと、とれないということも、またこれは逃げでございますけれども、とれるように努力するということしか申し上げられないわけですが、中小企業の方々にとりましては、大変負担のかかることであるということだけは申し上げさせていただきたいと思います。
 それから、インターネットの活用についてでございますが、私どももインターネットの活用というものを通じてでないと、この作業というものはできませんし、データの集計もできませんし、膨大な資料をだれが見るのかということも、これは結局限られた人になってしまう。やはりインターネットの中から選択されたデータというか、自分の意思で選択できる、これは地方公共団体の方々にとりましても同じようなことだと思いますが、インターネットの活用というものがぜひ必要でございます。これらも、どのような形でインターネットを構築していくのか、今後十分検討していただきたいと思います。私どもも、それに早くマッチするような方法を早く事業者の方に伝達して、みんなでやろうというふうに取り組んでいきたいと思います。
 それからリスクコミュニケーション、これは常にPRTRの制度の導入のときから議論があったものでございます。この中で、私どもは、データを出せばいいという問題ではないわけで、そのデータの意味といいましょうか、そういうものをやはり理解していただくというコミュニケーションというものは非常に大事でございます。そういう意味では、地方公共団体の方々とともに、地域の方とやはり我々は前向きに円滑な情報交換といいましょうかそういうものを進める、これはやはり自主的に自分たちでやるという、隠すという意味での意思ではなく、自分たちでやっていく。
 しかし、ここには限界があるわけでございます。この物質の、常に言われております健康等への影響のおそれ、そのおそれというものは言葉では簡単でございますが、定量化がなかなかできない。そういうところでは、やはり心を通じていくということしか結局ないわけでございます。そういう意味では、信頼関係を確保しつつやっていく、こういうことだと思いますので、私どももこのPRTR制度ができます前から、そういうことを志してまいりたいというふうに存じております。
 以上でございます。

○新藤委員 ありがとうございました。
 恐らく中小企業者に対しては何らかの技術的な支援ですとか、金融関係の制度も充実させていかなければいけないのかな、こういうふうに思っておりますので、そういうときはどんどん私どもにまたお申しつけいただければ、ありがたいと思っております。
 ちょっと時間がございませんので、申しわけございませんが、引き続きまして、浦野先生にお尋ねをしたいと思います。
 浦野先生の御主張というのはかなり明確なものがございまして、国の一元管理、国に集約させるのではなくて地方自治体をもっと使っていくべきだ、幾つもお話がございましたが、私はそういうところがまず一番ポイントだなというふうに思いました。
 実は、私は市の職員だったんです。これをやったことがあるんです。埼玉なんですが、地元の市会議員もやったことがあります。そういう自治体のこともよくわかっているつもりなんですが、一番恐れるのは、やる気のある自治体、それからできる自治体と、そこまでなかなかできない自治体がある。三千三百、自治体があるわけです。それで、先生がお話をされたように、情報が確実で正しくなければ意味がない。だから、一律のレベルで集まらないと意味がないんですね。それから、全国津々浦々にPRが難しいんだよ、こういうお話がありました。
 そうすると、それは逆に、まさに熱心な地域がばかを見るのは、あってはならないことです。でも、不熱心な地域がもしあったとして、そこの不熱心な地域の不熱心な自治体によって、それがもし発生してしまったら、これは逆説的な話になっちゃいますが、かえって危険になるのかな。ましてや、パイロットプランをやったときにも、なかなか趣旨が徹底していなかったというようなお話もございました。
 であるならば、別にこれは国にやらせておいて、自治体が知らぬ顔をするということではないと私は思っているんですね。また、そんなことをさせるつもりはありませんし、データは一元的に国が集めるんだ。しかし、それをそのまま丸ごと自治体に出しちゃうわけでしょう。だから、そこで自治体にしっかりと、もし危険があったり、それからモニタリングをしなきゃいかぬ、さらに追跡調査をしなければいけないとか、そういうようなことが発生したら、それはそこで自治体にやらせればいいのじゃないか。
 むしろ逆に、今度は資料の収集、データを一元管理するという観点からすると、自治体ごとでまとめられちゃうと、市役所でまとめました、はい、それを県庁に持っていってください、県が、また四十七都道府県集めて、それを国になんというようなことをやったら、時間がかかっちゃってしようがないのじゃないか、私は逆にそんなふうに思っているんですね。だから、この制度は国も県も市も全部同じ立場でやらなくちゃならないんです。させなくちゃならないんです。ただ、その手続というか窓口、どういう流れをつくるかということを私は思っておりますから、その辺、先生、もしお考えがあったらどうかなと。
 ごめんなさい。本当はちょっとやりとりをしたいんだけれども、時間がないんだ、もう終わらなければならなくなっちゃうから。
 それと、あともう一つ、中小企業でたくさんの物質が出ている、こういうお話がございました。であるならば、これは大変な問題だと思うんですね、中小企業の皆さんは五人とか十人とかでやっているんですから。そういうところに今度は新しい制度をかけて、あなたたちはやっていることをちゃんと報告しなければいけないんだと。
 そうすると、先生、逆にこの中小企業の皆さんに、どんなお手伝いを国なり我々はしなくちゃいけないのか、対策は。中小企業に必ず出させろ、出させなければだめだよというお話もわかるけれども、逆に、では、そういう企業に出してもらうためにはどんな対策が必要だとお考えになるのか、もしあったら、参考に教えていただきたいんです。

○浦野参考人 ただいまの御質問は大きく二つあったと思っております。自治体の関与の件と、中小企業の支援の件だと思っております。
 私は国に一元化することに反対しているわけではございません。現在の政府案では、事業所管官庁ということで非常に窓口が多くなっている。事業者は特に多業種になっておりますし、業種も、業態も非常に変化が激しくなっております。今回のパイロット事業でも、この業種ということで報告を求めたところ、一割が業種が違っておったという事実もございます。そういった中で、少なくとも国でも窓口は一ないし二省庁に絞るべきであるというふうに私は考えております。
 それから、自治体に出すという場合に、民主党案では市町村を経てという形になっております。私は、おっしゃるとおり、少し市町村は無理だというふうに考えておりまして、都道府県レベルで集める、あるいは事業者が、アメリカのように、そのほかの国のように、同じものを二つ国と都道府県に出すという形も、これは弁護士会が提案している案でございますけれども、非常にいいのではないか。都道府県が国と市町村との間に入るということは、非常に有効であるというふうに思います。
 先ほど来話がありました、非常に熱心に取り組むところと、そうでないところがある、これは私も非常に心配しております。
 自治体というのは、熱心なところはどんどんやるから問題ないのですが、熱心でないところをどうやって動かすかといいますと、一番は、法律的に何らかの責務や権限が与えられると、自動的にそのようなセクションができて対応するのでございます。それが不明確ですと、やる、やらないが非常に差が出るということで、地域で問題を生ずる。ですから、都道府県レベルには少なくとも、もう少しきちっとした権限あるいは責務をつけるべきだ、それが私の主張でございます。
 それから、自治体に情報が行けば当然やるのではないか、やらせなければいかぬということになるわけですが、今の政府案で自治体がもらったときに、果たしてどこが自治体にやれと言えるのか。あるいは、自治体が企業者に何かを言うときに、どういう権限で言えるのか。あるいは、間違いがありそうだ、報告をしてなさそうだというときに、どうやってそれを言いに行くのか、調査しに行くのかというと、できないわけです。
 それは、自治体が環境庁ないしは事業所管官庁にまず問い合わせをしなきゃいけない、問い合わせをしたらどういう返事が来るか、その先わからないわけですね。それでは自治体もちゃんと動けないのではないか。もちろん、動くところは動くのですが、動かないところは動かないだろう、そこを非常に心配しているというのが事実でございます。
 それから、中小企業についてでございますが、中小企業といいますのは、この制度は、一応従業員数あるいは化学物質の取扱量で、すそ切りという形を多分行われる、パイロットでもそうでございます。ですから、非常に小さいところは直接報告をする必要がない制度に多分なる。
 しかし、すそ切りより上ではあるけれども、小さいところで知識のないところというのは当然あるわけですから、そういうところに対して、当然、業界あるいはその他で指導もされると思いますが、きめ細かな指導や助言、手助けをするのはやはり地元自治体であるというふうに私は思っております。その自治体がまずレベルが上がって、その上で中小者にもいろいろな支援をするということが、自治体自身も予算をとったりしてやらなきゃいけないと思うのですね。そういった根拠をつくることが非常に重要であるというふうに私は申し上げておるわけでございます。

○新藤委員 ありがとうございます。
 本当は、もう少しお話をやりとりした方がわかってくるのかなと思いますが、先生のお考えも大体よくわかりました。ただ、私は、一点、自治体に法律を課すことによってやらせる、やるようになりますよというのは、まさにそうだと思うのです。ただ、それは限りなく規制法に近づいていってしまう、こういううらみもあるような気がするのですね。ですから、自主的な改善を促すという意味からすると、かなりの工夫をしなきゃいけないものはあると思います。どちらがということではないと思うのですが、結局、仏つくって魂入れずでは意味がないということですから、これはきっちり我々も監視していきたい、このように思っています。
 申しわけありません、山下参考人さんには、お尋ねしようと思っていたのですけれども、ちょっと時間が、私が長話をしちゃったものですから、足りなくなってしまいました。自治体として、とにかく、これは国が所管になるからではなくて、まさにパイロットで御苦労いただいた先達として、逆に国がこういう全国データベースをつくるのだから、それを生かして、いかに地方自治体がしっかりと取り組んでいくか、これの先頭の旗振り役になって御活躍いただきたいと思います。
 最後に、近藤先生にちょっとお尋ねをしたいのでございます。それも、一点だけ申し上げさせていただきたいと思います。
 いろいろとこの法律についても御検討いただいて、随分と詰めていただいた、御苦労いただいたというふうに思っておりますが、この専門家として、今回の話が、事業者と、国であり市町村であり行政と、市民もしくは市民団体、きょうも御関心ある方がこうやっておいでいただいておりますが、この方たちが心配をして、どうしようか、こうしようかとやっております。でも、そもそもこの化学物質が安全であるかどうか、それともその危険性がどの程度影響が出てくるのか、ここの部分を決めるのは、事業者でも行政でも市民団体でもないのだと思うのですね、やはりこれは科学界のことですから。ですから、基礎研究なり科学的な研究にしっかりと取り組んでいく必要があるのじゃないか。それが、きちんとした指針が出れば、何も皆さん心配することなく、そして危険も未然に防げることもあるということだと思うのです。
 そういう意味で、先生は第一人者で御活躍いただいております。ですから、逆に、今、国の体制で、こういう化学物質の研究をするときに、もし必要だ、またこういうものをやってほしいんだというような御要望がありましたら、ぜひこれは政治の場に、我々に入れていただきたいのです。
 日本の産業がこれから世界に伸びていくために、環境問題に適応できなければ死活問題になります。ですから、そういう意味でも、逆に今度は学術的な研究にももっと金を出したっていいじゃないかと僕は思っているのですけれども、その辺で先生方からの御要望があれば、これはぜひお聞かせいただきたいと思います。

○近藤参考人 ありがとうございます。
 今おっしゃいましたこと、前半に関して、全く同感でございますし、後半に関しましても、ぜひお願いを申し上げたいと思います。
 こういう化学物質の問題に関しまして、一番大事なことは、正確なる科学的知見を得るということでございます。それをもとにして論議がなされるべきである、こう考えておりますので、その科学的知見をより多くの化学物質に関して、より詳細にこれから決めていかなくてはならないと思います。
 そういう意味におきましては、大学研究機関、それから政府の研究機関その他いろいろなところで協力をして、いち早く化学物質の毒性、生体影響あるいは人に対する被害、影響といいますか、こういうものを突きとめていただきたいと思いますけれども、研究費というのが何しろ足りませんので、非常に皆さん難儀をしておられるというところで、各省庁の機関でもそうだとは思います。
 それからもう一つは、環境モニタリングというのはぜひ必要になってまいります、その毒性等に応じての話でございますね。この環境モニタリングは、環境庁が大いにやっていただいておりますけれども、一件に対する費用というのは大変たくさんかかりまして、年間の調査物質が数少ないわけでございます。したがって、もっと数多くこれが検討できるような予算配慮というものはぜひ必要かと思いますので、ひとつよろしくお願いしたいと思います。

○新藤委員 では、質疑時間が終了しておりますのでこれで終わらせていただきますが、今のお話ですと、要するに政治の場に求められているのは予算だ、こういうことだと私は思っておりますけれども、商工委員長、これはぜひ皆さんで相談して、しかるべきお手伝いをさせていただきたい、このように思っております。
 大変ありがとうございました。