小児神経科についてメディアで論じられた資料
■2001年4月20日 読売新聞記事 「診療科として未承認」
【「大学で学べない」】
子どもの精神科を専門とする東京都立梅ヶ丘病院(世田谷区)。三十歳代のB子さんは幼児学童病棟を担当する精神科医だ。
地方の大学病院と関連病院の精神科で八年間勤務し、九八年春、梅ヶ丘病院に赴任。最初は戸惑うことも少なくなかった。
「この子はいつになったらしゃべるんでしょうか」「興奮はいつごろ無くなりますか」。知的障害を持った子、自閉症の子の親から、そんな相談をされても、うまく答えられない。
医学生時代から、児童の精神科医になりたいと思っていた。しかし、授業で子どもの精神科医療を学んだ記憶は、ほとんどない。大学病院の精神科でも、子どもの治療に力を入れておらず、患者も少なかった。
梅ヶ丘病院の医師は子どもの専門家ばかり。看護婦、臨床心理士、精神科ソーシャルワーカー、保育士らも常に勉強し、患者の情報を交換し合う。初めて専門医としての系統的な訓練を受けることができた。
B子さんは「以前の私は、子どもの心理がどんな特徴を持つのか、よく分かっていなかった。教科書にもあまり書かれていない。もっと早い時期に深く学び、体験しておきたかった」と振り返る。
【認定医は百人前後】
日本児童青年精神医学会理事長で東海大教授の山崎晃資(こうすけ)さん(63)は「児童精神科に関する日本の制度は、先進諸国に比べ半世紀は遅れている」と残念がる。
欧米では、一九五〇年代以降に「児童精神科」が標ぼう診療科名として承認され、韓国でも八五年に誕生した。先進諸国の中で認めていないのは、わが国だけという。
診療科として存在しない以上、大学医学部は専門の講座を設けない。精神科の教授がこの分野に熱意を持つ一部の大学を除き、系統だった教育・研修は行われていないのが現状だ。
その結果、専門の医師も育たない。学会の認定医は約百人しかおらず、医師一人あたりの未成年者の人口は、他国に比べ、けた違いに多い。
山崎さんが診てきた子どもの中には、先に何か所も医療機関を回ったものの、適切な診療が受けられず、症状が悪化した例もある。
「児童精神科の看板があれば、親も子も迷わずに訪ねられる。医学教育の充実も、不採算を解消する診療報酬の改善も進むはず」
しかし、児童精神科が国に認められる見通しは立っていない。子どもの心の問題は既存の精神科や小児科だけでは対応できないことが、社会に理解されていない。山崎さんはそう考えている。
■児童青年精神科医の現状
杉山登志郎(すぎやま としろう)
あいち小児保健医療総合センター心療科部長
児童精神科医
私は現在、昨年11月に発足したばかりの新しい県立子ども病院で働いている。発足4か月目であるが、既に破綻を来し始めており、このことを報告したい。
私は、新しい病院で外来を始めるに当たって、対策をある程度考えたつもりであった。愛知県には、既に県立コロニーという障害児療育の大本山があり、そこには児童精神科医も4人常勤している。新しい子ども病院の担う役割は、子ども虐待への総合的な治療など、県下ではこれまで十分に対応出来ていなかった問題の中核的治療病院となることである。病院である以上、受診してきた患者の拒否は出来ないが、児童青年精神科の初診はとても時間がかかり、自ずから診察可能な人数が限られてくる。精神科医1名(私です)、小児科医1名の体制で、心療科を運営するので、病院の本来の目的が損なわれないようにしたい。そこで、われわれは以下のように曜日ごとに特殊外来を5つ並べるという方法をとった。
月曜日:多動、非行外来
火曜日:やせ症、心身症外来
水曜日:不登校、引きこもり外来
木曜日:育児支援外来(ここが虐待外来である)
金曜日:発達相談外来
さて、ねらいは一応は当たり、待っていられない育児支援外来は2週間以内に診察が可能な状態が現在も保たれている。しかし、それ以外の外来は全て長期の待ち患者を抱えることになってしまった。
2月時点での待機期間は、多動外来が7か月、心身症、不登校がそれぞれ3か月、発達相談に至っては1年3か月である! 心身症や不登校にしても、相対的には待機期間は短いとはいえ、やせ症を3か月待たせたら死んでしまうか、治っているかどちらかである。発達障害はそう簡単には死なないが、3歳児が4歳になってしまうとなると良いことであるはずがない。
さらにこうなると、早く診察を受けさせろという圧力が、様々な所から加わるようになった。病院の他の科に受診し、そこから院内の紹介で受診をもくろむ。「子どもを虐待しそう」とウソを言って育児支援外来に潜り込む(親がこの手を取るのはまだ許せるとして、児童相談所職員がこれをしたときには、本来の虐待への対応が出来なくなったらどうするんだと唖然とした)。面識のない国会議員からの紹介、同じく県議や市議からの紹介、地域の小児科医からの直接電話交渉などなど。
私たちが仕事を怠けているのではない。新患は月100人以上診てきており、このペースでいくと年間新患1400人前後になる。再来率98%を誇っており、既に再来が新患の時間に食い込み始めている。外来は、どの曜日も、1年を待たずパンクするのは目に見えている。さらにわれわれを腐らせるのは、こうして目一杯働いていても、やはり赤字に変わりないということである。発達障害や心身症をきちんと診たいという心ある小児科医はたくさんいるのであるが、それをすると全くの赤字になるので病院が許さないのだ。だからこそ、われわれの病院にそれっとばかりに患者が集中してしまう。
児童青年精神科医は、現在の10倍は必要だと思う。それが可能になるためには、この領域の診療報酬が改善されることが必要不可欠であろう。
入院治療の問題には全く触れなかったが、入院となると、もっと極端な状況となるのである。発達の問題や、子どもの心の問題への対応が、速やかに出来るようになることは、国家レベルの急務ではないかと思うのであるが......。
■2004年7月6日 毎日新聞 自閉症児とその家族/4 貧困な乳幼児期支援
◇担任がADHD「何ですか?」/「わがまま」といじめの標的/初診まで2年9カ月待ち
まだ長女(13)が小学1年生のころだった。居眠りや忘れ物が多く、よく一人遊びをしていた。「うちの子は何か問題があるのでしょうか」。相談した母親(36)は、担任教師の冷たい視線に押し黙るしかなかった。
<しつけの悪さを、子供のせいにしている>
担任の顔にそう書いてあった。
家では明るい普通の子だった。「顔を洗いなさい」「もう学校へ行きなさい」と言えば素直に従った。ところが、学校では一変。チョウを見ると授業中でも追いかける。集団行動ができず、3年生のころ、注意欠陥多動性障害(ADHD)ではないかと思った。が、当時の担任も「何ですか、それ?」。
「わがまますぎる」とクラスで浮き上がり、いじめの標的になった。青あざが絶えなかった。「うちでは普通なのに......」。母親はノイローゼ気味になった。長女に包丁を向けた。風呂で沈めようとした。「ここまでやれば責任取ったことになるんでしょ、と世間に言いたかった」
6年生になり、新しい担任が教室の異常に気づいた。「あまりにひどい」と泣いて児童に迫った。いじめは止まった。中学のスクールカウンセラーと連絡を取り、専門医からアスペルガー症候群と診断された。
「もっと早く分かっていれば、学校生活は違うものだったかもしれない」と母親は悔やむ。
× ×
窓辺に置かれた電車や積み木の自動車で、高機能自閉症の男児が遊んでいた。あいち小児保健医療総合センター(愛知県大府市)の心療科診察室。
「次回は9月にね」。杉山登志郎心療科部長は、A4判ファイルが並んだ2段重ねの棚から次の患者のファイルを取り出した。この日の患者数は40人。週1回の発達障害の外来日には県内外から患者が殺到する。
同センターは四つの専門外来がある。初診を受けるのに心身症と不登校は1カ月半、虐待など子育て支援は2週間待ちだが、発達障害は実に2年9カ月も先だ。子ども本人だけでなく、親や学校の先生にもじっくり話を聞かなければならない。だが、発達障害を診察する児童精神科医は全国に約200人しかいない。杉山心療科部長は「待っている間に幼児期が過ぎてしまう。発達障害は早く気づいて早期療育につなげることが大切なのに」と懸念する。
× ×
アスペルガー症候群も高機能自閉症も知的障害を伴わないだけに、なぜ周囲との不調和が生じるのか、本人や家族もわからない場合が多い。いじめ、排斥など2次的被害にも苦しめられる。
成長とともに自己決定を尊重し、本人中心の生活を支援する態勢の充実が求められており、医療主導の治療や教育偏重には批判も根強い。しかし、乳幼児期を支える医療現場はあまりにも貧困だ。子ども10万人当たりの児童精神科医数(96年)はスウェーデン12・5人、スイス12・0人に対し、日本は0・35人しかいない。
■日本の児童精神科医師数
今日の毎日新聞の連載記事、うちの子:自閉症児とその家族/4 貧困な乳幼児期支援 の中に日本の児童精神科医師数についてふれた部分があります。
だが、発達障害を診察する児童精神科医は全国に約200人しかいない。(中略)しかし、乳幼児期を支える医療現場はあまりにも貧困だ。子ども10万人当たりの児童精神科医数(96年)はスウェーデン12・5人、スイス12・0人に対し、日本は0・35人しかいない。
この数字はやや過小に評価されているようにも思われます。
厚生労働省が音頭をとって推進している「健やか親子21 」という運動のサイトには、日本児童青年精神医学会の会員数から推定した児童精神科医数の人口比が掲載されています。なお児童青年精神医学会の会員は2000名以上いるのですが、非医師の会員が多いため医師数は1048人で計算されています。
'00) (小児人口10万対) 児童精神医学分野に取り組んでいる小児科医もしくは精神科医 5.7
(取り組みの目標値 3. 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備 より)
毎日新聞の数字の根拠がはっきりしないのですが、この推測値の差にはいくつかの理由が考えられます。
・基準としている時期の差
・「健やか親子21」は0歳?14歳の児童のみを「小児人口」としていること。実際に児童精神科医の関与する症例は14歳以上であることも多い。
・日本児童青年精神医学会の会員は、必ずしもフルタイムで児童精神科医療に携わっている訳ではないこと。
(むしろそうでない会員の方が多いのではないでしょうか。かくいう私も会員ですが、勤務時間の半分以上は成人の医療にあたっています。他にも小児科医の会員などもいるため、この数をそのまま「児童精神科医」数とすることにはかなり無理があります。)
以上の点を考慮すると0.35人/10万人は極端としても、5.7人/10万人よりはかなり少ない数字が、実態に近いと言えるでしょう。
根拠は薄弱ですが、2.0人/10万人あたりの数字では、どんなもんでしょうか。
さてこの根拠の薄弱(笑)な、2.0人/10万人という数字を使ってもう少し考えてみましょう。
広汎性発達障害の有病率は、最近の研究では概ね1%程度と言われています。すると人口10万人に対して1000人の患者がいることになり、児童精神科医1人に対して500人となります。実際には全員が医療を必要とするわけではありませんから、500人もフォローすることにはならないのですが、少なくとも診断には関与すべきでしょう。
これに加えて注意欠陥多動性障害は有病率が3?4%とされています。ということはなんと児童精神科医1人あたり1500?2000人!さらに被虐待児や一部の不登校、小児うつ病やその他の精神疾患の患者などをあわせると、いったい一人の児童精神科医が何人の子どもを診ていくことになるのでしょうか。
繰り返しますが、こうした子どものすべてが継続的な医療を必要とする訳ではないので、実際にはもっと少ない数になるのですが、いずれにしても非現実的な数字になります。
こうした状況を変えていくためにも、児童精神科医の養成と医療機関の整備が必要です。厚生労働省はまず手始めに児童精神科を正式な標榜科として認めることから始めてはどうでしょうか。

























