自民党「第8回 経済好循環実現委員会」<労働政策について>(2015年4月23日)

4月23日、自民党「第8回 経済好循環実現委員会」を開催しました。
資料を掲載しましたので、よろしければ是非ご覧ください。

議 題:労働政策について 経済好循環へ向けた有識者ヒアリング
     樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授
     中野 諭 独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員

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4月23日、私が委員長を務める党の経済好循環実現委員会で、労働政策分野の樋口美雄慶應義塾大学商学部教授と中野諭独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員をお迎えして第7回有識者ヒアリングを行いました。

◎樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授からは「労働力需給推計の概要」と題して次のようなお話を伺いました。
○ 本日は、私が座長をしている雇用政策研究会で昨年2月に行った2020年、2030年における中長期的な日本の労働市場における需給推計の結果をベースにお話しする。
○ シミュレーションは大きく分けて、「経済成長と労働参加が適切に進むシナリオ」、「経済成長と労働参加が適切に進まないシナリオ」の2つ(以下それぞれ「経済再生シナリオ」、「ゼロ成長シナリオ」と略す)に分けて行った。「経済成長シナリオ」は、2012年~2020年の成長率を2.1%、就業率も希望者全員が働ける57.4%と高めに想定。「ゼロ成長シナリオ」は、成長率が0.6%、就業率は現在の56.5%から54.3%に下がると仮定。
○この2つのシナリオに基づき2020年の値を推計すると、「ゼロ成長シナリオ」では、就業者が現在の6270万人から5947万人に減少し、「経済再生シナリオ」では、就業者が人口減少の中でも6291万人に増加する。
○ 男女別推計では、男性は20代~50代において労働力率はほぼ100%近く、今後は60代男性の労働参加が期待される。女性は20代、30代、40代で、2020年、2030年とワークライフバランスを実現しながら労働参加していくことが期待される。以上が全体のマクロの推計。  
○ 産業別の労働力人口、就業者数の推計では、建設を含めた鉱業・建設業の就業者数は現在506万人から、「経済再生シナリオ」では2020年に470万人に、2030年には416万人に減少すると推計。これはICTの活用で建設業の生産性が向上することによる。
○製造業は2012年の1032万人が、「経済再生シナリオ」では2020年に1048万人、2030年には994万人と推計。こちらも生産性の向上を予想。
○医療・介護・福祉の分野は2012年706万人が、「経済再生シナリオ」では、2020年に850万人、2030年に962万人と今後も大幅な増加を期待。
○ これらの数字を見ると、今政府が想定している経済成長率を実現するため、働き方の改革、特にワークライフバランスの推進により、労働力については確保できると考えられる。ただ産業によっては大きな調整が必要となってくる。
○マクロ、産業別の労働市場の流れとともに気になるのは、わが国で雇用調整のスピードが速くなっていること。かつては景気が悪化し過剰雇用となっても、企業は短期間での雇用削減はしないということが日本の特徴だった。1980年-1996年の雇用調整に必要な年数は4.76年だったが、1997年の金融危機以降は3.33年となった。日本はまだアメリカ、イギリス、フランスなどと比べると遅いが、企業ガバナンスに大きな変化が生じたと言える。
○ドイツについては、雇用調整に必要な期間が1.75年から6.25年と急激に伸びている。その理由は労働者の代表が経営側に入っていくことで、必ずしも経営の視点が短期化しないような工夫がなされるなど、企業のガバナンスの影響もあると考えられる。EU諸国もこれを取り入れようとしている。
○雇用調整のスピードアップは、景気の良し悪しに企業の労働需要が大きく左右されることを意味する。短期的景気変動によって人手が余ったり、足りなくなったりと、波が大きな社会になってくると予想され、企業ガバナンスの強化をはじめ、このことに対応する仕組みが必要である。

◎中野諭(独法)労働政策研究・研修機構研究員からは「平成25年度労働力需給の推計」と題して樋口教授がお話になった上記推計がどのような考え方・手法で行われたのか、を中心に次のようなご説明を頂きました。
○ 平成25年度労働力需給の推計は、国立社会保障・人口問題研究所から出された「日本の将来人口推計」、政府の「日本再興戦略」による政策目標を踏まえ、将来の労働力人口、就業者数を推計したもの。
○ 経済成長と労働市場参加の想定に基づく実際には3つのシナリオを用意。樋口先生がおっしゃった「経済再生シナリオ」、「ゼロ成長シナリオ」の他にその中間として、経済成長率が1%程度で労働市場参加が一定程度進む「参考シナリオ」についても推計した。
○ 3つのシナリオそれぞれにおける実質経済成長率は、経済再生シナリオでは2%、参考シナリオでは1%程度、ゼロ成長シナリオでは0.3%である。物価については、消費者物価指数変化率を、経済再生シナリオでは2.1%、参考シナリオで1.5%、ゼロ成長シナリオで0.3%と推計している。
○ 各シナリオの概要を整理すると、
「経済再生」シナリオは、年率実質2%程度の経済成長達成、「日本再興戦略」における成長分野の追加需要や医療・介護分野の今後の需要増、フリーター・ニート対策等の若年雇用対策や保育所の整備等の女性の就業支援などによる
労働参加増加等を考慮している。「ゼロ成長シナリオ」では経済成長は0%程度で、「日本再興戦略」における成長分野の追加需要を考慮しない。医療・介護分野については、今後の需要増が予想されるので考慮する。労働供給側については、現在のまま労働参加が進まないことを想定。「参考シナリオ」では、成長率が1%程度、「日本再興戦略」における成長分野の追加需要を経済再生・労働参加進展シナリオの半分程度考慮。労働市場参加も現状よりは進むと想定。

講演後に意見交換を行いました。その主なものを紹介します。
・60~80代前半のいわゆるプラチナ世代に職業訓練を受けてもらい、健康な間は働いていただき、プラスの意味で労働市場にどんどん循環させていくことも必要ではないか。
・「団塊の世代」は年270万人生まれており、今現在60代後半だから今後10~20年は医療・介護のニーズが非常に高まる。この世代は首都圏に集中している。オリンピック後に首都圏は医療・介護サービスの供給不足が深刻になる。他方、2割の基礎自治体では高齢化と言いつつ65歳以上の人口が減少し始めていて、医療介護サービスの過剰が発生する可能性がある。プラチナ世代、女性を含め人のやりくりを考える必要がある。
・日本の労働力は製造業の70%、建設業の90%が男性。男性の雇用は1998年がピークでその後減少している。医療・介護分野では70%が女性。いわば「男女間ミスマッチ」というようなものがある。
・労働力需要が低い分野から高い分野への再就職もスムースにするような社会的システムは考えられないだろうか。
・日米の生産性比較では、自動車・電気産業では日本が圧倒的に高いが、全体で見ると米国が高い。日本はサービス産業、その中でも個人業主の生産性が低い。わが国はICT利用による生産性向上が非常に遅れている。これはいわば「技術のミスマッチ」であり、大きな課題と認識すべき。
・この5-10年で単純労働も含めた外国人労働者、ミスマッチの解消、高齢者・若者・女性の就業参加などあらゆる情報を吸い上げて国家戦略を考える必要があるのではないか。

以上。

-配付資料-
【資料】樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授  「労働力需給推計の概要」
【資料】中野 諭 独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員  「労働力需給の推計」



開会挨拶



講師のお二人と



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