週刊新藤第246号 どうする?日本のエネルギー政策!〜経済再生に向けた新しいベストミックスを〜

全原発の停止は、電力不安、燃料費の増大、CO2 排出の激増を招き、日本のエネルギー基本計画は白紙からの見直しを余儀なくされています。
我が国の新たなエネルギーベストミックスに向けて考えてみました。


 東日本大震災以降、日本のエネルギー政策は根本的な見直しを迫られています。


◆ 石油危機以降のエネルギー供給体制

 わが国は、1973年のオイルショックを受け過度の石油依存からの脱却を国家目標に掲げ、石油代替エネルギーの利用を推進してきました。
この結果、電力供給の74%を占めていた化石燃料比率を66%に下げ、原子力の比率を 6 %から26%に引き上げることで、石炭(25%)天然ガス(28%)と併せてエネルギーのベストミックスと呼ばれる供給体制を構築したのです。

○白紙からのエネルギー戦略の構築


◆ 破たんしたエネルギー基本計画

 さらに政権交代後、鳩山首相の国連総会における突然の「2020年までにCO2の25%削減」宣言を受け、民主党政権は、「2030年までにCO2を30%削減」するエネルギー基本計画を打ち出しました。
この目標達成のため電力に占める原子力比率を53%に引き上げ、「新たに原子力発電所を14基以上建設」することが柱になっていたのです。
しかし、この計画は、福島第一原発の事故により、全くの絵に描いた餅になりました。
原子力発電の拡大により、エネルギー供給と地球温暖化防止の双方を達成しようとした計画は、全て白紙見直しとなったのです。

○現行のエネルギー基本計画(2010年6月閣議決定)


◆ 民主党の原発対応が招いた混乱

 全原子力発電所の停止は、電力供給不安と電気料金値上げ、CO2排出の増大を引き起こしています。
また、火力発電所のフル稼働により石油・天然ガス輸入の急増は、我が国に31年ぶりとなる貿易赤字を招く原因となっています。
混乱の原因となったのは民主党政権のちぐはぐな対応です。
昨年 5 月、菅首相は当時稼働中だった中部電力・浜岡原発を、地震の危険性が高いとして突然の運転停止を要請しました。「再稼働の条件は万全な津波対策」だったのです。
ところが 7 月、政府は「再稼働の条件はストレステストの実施」と突如方針を変更し、地元合意を得ていた九州電力・玄海原発の再稼働に待ったをかけました。
もちろん原発の安全性には十二分な検討を行い、何より安全性を優先すべきであることは当然です。
しかし、現在焦点になっている関西電力・大飯原発の再稼働に至るまで、どのような専門的な議論が行われ、政府の決断を検証する国会の質疑は行われたのでしょうか?
事故時の不手際な対応や突然の方針変更など、政府の迷走ぶりや誤った政治主導が、我が国のエネルギー供給体制を揺るがしているのです。


◆ 再生可能エネのみでは供給に難が!

 これから策定する新エネルギー基本計画では、「原子力発電への依存度低下」を基本にしなければならないと思います。
そのためには再生可能エネルギーの比率を高め、省エネルギーを徹底的に追求していく必要があります。
しかし再生可能エネルギーは、時期や時間、天候によって発電が不安定になり、現状のエネルギー供給でも依存度は 6 %程度(大半は水力。太陽光、風力、地熱などは 1 %程度)でしかありません。


◆ 新エネルギー計画の可能性
①「スマートコミュニティ」の実現

 再生可能エネルギーの比率を高めるためには、まず第一に企業や家庭への積極的な導入が必須です。
第二に、太陽光などの再エネは刻々と発電量が変化するので、これを貯めておくための蓄電池の開発や、必要な分だけ電気を融通するスマートメーターを普及させたり、電気自動車などと組み合わせ、街全体で電力を効率的に使える社会の実現を目指さなければなりません。
こうした「スマートコミュニティ」の実証プロジェクトは、各地において様々な形で実施されています。

○スマートコミュニティのニーズの高まり


◆ ②「水素エネルギー」の未来

 さらに新しい技術として私が特に関心を持っているのが、エネルギーを取り出す際にCO2を出さず、水しか発生させない「水素エネルギー」の活用です。
お天気任せの太陽光発電と、水素で発電させる燃料電池(家庭用燃料電池=エネファーム)を組み合わせることにより、雨や曇りの日にも安定的な発電が可能となります。
2015年からは水素燃料電池車も本格的に市場投入される予定です。
私は経済産業副大臣の時に、水素自動車を使ったことがあります。エンジン音が無く、排気ガスの代わりに水を流しながら、驚くほどスムースに走ったことを記憶しています。
その時点では一台 2 億円ほどした車を開発メーカーからリースしていましたが、それが数百万円台で販売されるようになるのです。

○水素インフラで分散エネルギーシステムを強固に


◆ 川口の工場が水素ステーションに?

 水素を効率的に生産するには、水を高温環境下(約800度)で電気分解する必要があります。
高温を発生するのは製鉄所や化学工場などですが、鋳物工場の溶解炉も千〜千五百度の高温になります。とすれば、この熱を活用して鋳物工場が水素ステーションになる可能性も出てきます。
電力多消費産業の鋳物がその特性を活かしてエネルギー供給元になれるとしたら、まさにコペルニクス的転回といえます。
水素供給網は現在の都市ガスパイプラインを転用できるため、工場で発生した水素を循環させ業務用や家庭用の燃料電池で発電させる街ぐるみの水素インフラが構築できます。
太陽光発電や蓄電池に水素インフラが加われば、エネルギー分散システムはより強靭なものとなります。
また、水素ステーションを整備し水素自動車や水素バス、水素スクーターが普及すれば、より高度なCO2削減が可能となります。


◆ ③地域独占・発送電分離は急務の課題

 既存電力会社の発電部門と送電部門を切り分ける電力システム改革は急務の課題です。
日本の電力供給は東西(東の50hzと西の60hz)に分断されており、東日本大震災時には電力会社間の地域間融通が限定され、有事に弱いことが明らかになりました。
また、我が国の電力供給は明治以来の地域独占体制が続いており、既存の電力大手が送電網を独占的に運用する垂直統合となっています。
これは電力の安定供給を維持する利点もありましたが、発電事業への新規参入や自由競争を阻む原因になっています。
PPS(特定規模電気事業者)などの新規事業者は、自分で発電できても送電は大手の送電網を使わざるを得ず、その際には借り賃を払う仕組みになっており、収益圧迫要因になっているのです。
我が国の長年の課題である、電力の地域独占の見直しや発送電分離について、私は今こそ大胆に取り組むべきと考えています。

○我が国の地域間連携線等の現状

○発送電分離の類型


◆ エネルギーベストミックスに向けて

 私たちの経済や生活を支えるのはエネルギーです。安くて安定的な電力・エネルギー供給を確保することは日本経済の生命線です。
併せてCO2の削減という環境問題の克服を両立させる国際的使命があります。
加えて、メタンハイドレートなど自前の資源確保も重要です。
我が国は資源確保とエネルギーの新しいベストミックスを構築しなければなりません。

①資源獲得やエネルギー供給の仕組みを戦略的・抜本的に見直す。
②新技術の実用化を早め、CO2を出さない電力供給を拡大させる。

これが私が考える新しいエネルギーミックスのポイントです。日本の夢ある明日のエネルギー政策の実現に向けて、一生懸命に活動して参ります。

○「『革新的エネルギー・環境戦略』策定に向けた中間的な整理」のポイント


新 藤 義 孝