週刊新藤第211号 「日・韓図書協定」に大きな疑問?~我が国外交に汚点を残す大失策への抗議~

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この問題に関する外交部会の議論の模様が自民党HPに掲載されています
http://ldplab.jp/station/2ch/)。また「オレの話を聞いてくれ!」
http://ldplab.jp/station/5ch/)にも私の動画がありますので、ぜひご覧ください。


 APECが開催されていた11月14日、前原外務大臣と金星煥韓国外交通商部長官は「日韓図書協定」に署名しました。今年 8 月10日に菅総理大臣が「日韓併合百年」の総理談話の中で発表した、朝鮮王朝儀軌等の図書を日本から韓国に引き渡すことについて、日韓両政府が正式に合意したこととなります。
 朝鮮王朝儀軌とは、李氏朝鮮時代の王室行事等を記録した図書のことで、日本が朝鮮を統治していた期間に朝鮮総督府を通じて日本側にもたらされました。今回の協定は、この儀軌をはじめ日本政府が保管する朝鮮半島由来の貴重な図書を韓国政府に引き渡すことを定めたものです。
 しかし、この協定は内容的・手続き的に極めて問題が多く、我が国外交に大きな汚点を残しかねないものであると、私は考えています。


◆ 事前調査なしの軽率な決定

 まず、国と国との協定である限り、関係事項について事前に綿密な調査が行われるべきです。
 特に、引き渡す図書の価値やその引き渡しの是非を判断するには、専門家や関係学識者からの意見聴取が不可欠ですが、呆れたことに政府は一切の調査を行っていないのです。
 国有財産の引き渡しという国家にとっての重要事項を、必要なプロセスも経ず、極めて安易に決めてしまうことは、国家の財産を管理するという政府としての基本的な認識が欠如しているといわざるを得ません。


◆ 日本からの一方的な片務協定

 政府は今回の協定の意義を、日本と韓国の文化交流・文化協力を通じて両国の友好関係の発展に資すること、と説明しています。
 であるならば、両国が互いに義務と責任を果たす相互協定でなければなりません。
 しかし今回の協定は、日本が韓国に一方的に図書を引き渡す片務的な内容であり、政府が主張する意義には全くそぐわないものです。
 実は韓国には、日本が引き渡しを求めるべき貴重な図書が多数残っているのです。現在、韓国の国立中央図書館には日本統治時代に搬入された数万点の日本の古典籍が保管されています。
 また、韓国の国家機関である国史編纂委員会には、対馬藩主の宗家から朝鮮総督府に流出した古文書約三万点が所蔵されています。
 これらの古文書は、今回日本側から引き渡す図書と全く同じ条件で、韓国が保管しているものです。
 「日韓の文化交流のため」の協定を結び、日本にある朝鮮王朝の古文書を韓国に引き渡すのであれば、韓国に残されている日本図書も、当然日本に引き渡しされるべきです。
 驚くべきことに、今回の交渉において日本政府は一切の要求を韓国側に行っていないのです。
 それどころか、要求すべき古文書の存在を全く知らなかったことが明らかになりました。


◆ 事実を知らずに交渉した政府!

 この韓国に残されている日本古文書の存在は、日韓の協定合意を11月9日の新聞報道で知った私が、韓国を研究している大学教授に問い合わせした中で明らかになりました。
 私は急いで外務省の担当者を自室に呼び、事実確認を行いました。
 協定署名のまさに直前である11月11日、私の事務所に来た外務省の担当者が「そんなのあるんですか」と頭を抱え、目を丸くしていたのをよく覚えています。
 今回の協定締結は、仙谷官房長官と菅総理らによる 8 月の唐突な総理談話で示され、調査も準備もなく政治的に一方的に決められたものを、外務省がただ言われるままに作業しただけにすぎません。
 日本が韓国に一方的に権利を供与するという、まことにお粗末な外交失態は、民主党政権の政権担当能力の欠如をまたもやさらすことになりました。


◆ 許せない国家主権の軽視

 そもそも1965年の日韓基本条約によって日韓両国はお互いの相手国に対する一切の請求権を放棄しており、また文化財に係る問題は、同年の日韓文化財・文化協力協定によって解決済みです。
 今回引き渡しされようとしている図書も、これまで韓国の国会や関係団体からたびたび要求がありましたが、日本政府は財産請求権問題は解決済み、という立場をつらぬき、取り合ってこなかったものなのです。
 それにも関わらず「日韓併合百年」に関連付けて「反省と謝罪」の気持ちを込めて我が国所蔵の図書を引き渡すのであれば、解決済みの問題をもう一度外交問題化させ、韓国国内における日本への新たな文化財引き渡し要求を高めることや、その他の新要求にもつながりかねません。
 実際に韓国では、民間所有のものや日本側が購入したものを含めた他の在日文化財の返還を求める声が出てきています。政府の軽率な決定が、国益の損失につながる大きな火種を抱えることになりつつあるのです。
 他国では、国有財産の国外引き渡しは極めて慎重に扱われています。例えば韓国とフランス間では、1866年にフランス艦隊が韓国の江華島を攻撃した際に強奪した「王室儀軌」の返還をめぐり、フランスが応ぜず17年間交渉が続いています。
 国有財産を他国に引き渡す、処分するということは国家主権にもかかわる問題であり、国家として極めて慎重に扱わなくてはいけない問題なのです。


◆ 反対の声の広がり

 このような様々な問題をはらむものでありながら、菅内閣は11月16日、日韓図書協定の国会承認を求める閣議決定を行い、協定は国会に提出されました。
 これは、我が国の国益を損ない、今後の外交の在り方にまで負の影響を与えかねない、極めて稚拙で無定見な愚挙だと言えます。
 韓国国立中央図書館蔵の日本古書や宗家古文書の存在を私が指摘した後、この協定への反対の声は確実に広がっています。
 自民党内では、「外交部会」で私がこの件について説明した際には政府への非難の声が相次ぎました。
 私が委員長代理を務める「領土に関する特命委員会」では、我が国の主権と国益の観点から図書返還の問題点について議論を進めます。
 私が副幹事長を務める『創生「日本」』(会長:安倍晋三元総理)では、政府の対応の誤りを指摘した上で、図書の引き渡し協定に抗議する声明を近々発表する予定です。
 他国と締結した条約や協定は国会の承認が必要なため、仮に民主党内でも反対の声が広がれば、国会による不承認、協定の発効阻止という可能性もあります。
 政府間ですでに合意したものと言われても、このような無定見且つ一方的な国有財産の引き渡し、他国との不平等条約の締結をそのまま見逃すことはできないのです。
 私は断固として日韓図書協定への疑問を投げかけ、国会内外でこれの問題点を強く訴えていく覚悟です。


 新 藤 義 孝