第188号 八ッ場ダムの本当の話~埼玉県・川口市・鳩ヶ谷市の負担は~

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11月10日、自民党国土交通部会メンバーと共に群馬県の八ッ場ダムを視察して参りました。
当日の模様は
私のホームページの動画コーナーで紹介しております。
さらに


◆ 水道水の供給源として

 八ッ場ダムは、利根川水系に作られる多目的ダムです。総事業費4600億円、完成予定は平成27年(あと 6 年)です。
 埼玉、東京、群馬、栃木、茨城、千葉の 1 都 5 県の下流流域の洪水や水害の防止(治水機能)と、住民の水道水の供給(利水機能)を確保するために進められてきました。
 利根川は埼玉治水の生命線です。H13年の台風時には堤防決壊寸前になったこともあり、H10年以降28箇所の堤防漏水が発生しています。
 利根川の水位をダムにより下げることが最大の洪水対策なのです。
 利水面でも大きな関わりがあります。私たちは市に水道料金を払い水を使っています。市は県営水道から水を買っており、県は河川管理者である国から河川の水を取水する権利を負担金を払って得ているのです。これを水利権といいます。
 埼玉県など 1 都 5 県の水源である利根川は現状の利用可能水量を使い切ってしまっています。従って新たにダムなどの水資源施設を開発し、河川水量を増やさないことには、これ以上の安定的な水供給ができない状態になっているのです。
 特に私たちの埼玉県は、県民に供給している水のうち、実に29%(約160万人分)の水が暫定水利権という、河川水量が豊富にある時しか使えない不安定な状態です。
 そして、この不安定な状態を安定させられる唯一の水源確保策が、八ッ場ダムなのです。八ッ場ダムの完成により埼玉県の安定水利権は99%に達します。
 過去に埼玉県は尾瀬付近に計画していた戸倉ダムの建設を取りやめました。このため八ッ場ダムが完成しないと、夏の渇水時の水が確保できなくなります。
 平成になってからも既に 6 回の取水制限が行われました。これまでは市町村の保有する井戸から臨時取水しましたが、地盤沈下の恐れがあり、今後も多用は出来ません。
 首都圏で最も安定水利権の少ない埼玉県は、八ッ場ダム建設費の負担金を最も多く払うことになり、総額は569億円(406億円は支出済み)に及びます。
 八ッ場ダムの整備または中止によって、最も影響を受けるのは埼玉県である、ということをぜひ皆様に知っていただきたいと思います。
 また、八ッ場ダムを含むダム開発に関し地元の生活再建や地域振興を支援するための基金があり、川口市が 3 億 4 千万、鳩ヶ谷市も 4 千万ほどの負担金を支出しています。


◆ 現地に行ってわかったこと

 私が受けた説明もマスコミ報道も、事業の進捗は事業費ベースで70%ということでした。
 しかしこれはあくまで金額上のことであり、現地の基盤整備は21年度中(来年の 3 月末まで)にほとんどが終わってしまいます。
 TVによく出る作りかけの橋(表紙写真)も 3 月までに開通します。これまで雨量が多くなると通行止めになっていた現在の道路は、山の中腹に1800mのトンネルによるバイパス道路が完成。同じくJRの線路も上にあがり、駅と線路が新設されます。小学校や公園、町営住宅、移転のための代替地も既に完成しており、住宅やお墓、旅館街も全て山の中腹に移ることになるのです。
 つまり、ダムを除いた周辺のまちづくりが完了するので、最後にいよいよダム本体を作る、というのが現地の実情だったのです。


◆ ダム湖による街おこし

 そして八ッ場ダム開発計画の真髄は、ダム開発により出来る新しい湖を活用した観光開発であり、旅館やお蕎麦屋さんなどの飲食サービス業を核とした「街おこし」だということが、実感できました。
 普通のダムは山奥にあるものが大半であり、人里離れたところ、というイメージではないでしょうか?
 ところが八ッ場ダムの場合は、ダムのすぐ50m下流からが観光地として名高い吾妻峡です。
 そこに美しい景観のダム湖が出来ればますます集客が可能になります。このダム計画は治水・利水を目的としつつ、併せて公共事業を活用した地域活性化策だったのです。
 この地域の生活再建策は、全てが「ダム湖ありき」なのに、肝心のダム湖が中止になりました。
 街が新しくなっても、人が来なければくらしを立てることが出来ません。これは民主党が標榜する「生活者主権」に逆行する許しがたい行為ではないでしょうか。
 そして、水没する地域の住民の方々の気持ち、激しい反対闘争や長い時間をかけた議論を無視し、国が交わした約束を突然に説明も無く反故にする今回の民主党のやり方は、どう考えても納得がいきません。

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◆ 現地を見ていなかった大臣

 現地では地元の町長や議会の方、住民の方々と意見交換会を行いました。
 その中でわかったことですが、なんと前原国土交通大臣は、八ッ場ダムの中止を宣言するまで現地を見たことが無かったのです。
 現地も見ず、計画の意図も確認せず、現場の声も聞かずして、どうして中止を決められたのか、まったく不思議なことです。


◆ 事業再開に向けて

 民主党は一方的にダム本体工事を中止するといっていますが、地元や下流域の都・県知事はじめ議会も激しく反発しています。
 私は今、自民党内においてダム本体工事の中止撤回に向けた国民運動を行うよう訴えております。
 皆様にもご理解と応援をよろしくお願いします。 


 新 藤 義 孝