第141号 ソーシャルビジネスの育成について ~ 新しい働き方の提示 ~



 
国政の動揺が収まりません。この週刊新藤の記事も7月の参院選以来ずっと政局に絡む話題ばかりになってしまっています。福田総理が選出されてからの国会で
は、まともな政策の議論がほとんど進まず、ついには民主党の小沢党首の進退を巡り、この原稿を書いている時点で国会は開店休業状態です。国会はそろそろ権
力闘争や政局の駆け引きだけでなく、国民の暮らしや地域づくりに必要な政策論議を深めるべきではないでしょうか
 今号では、新しい働き方、新しい仕事として私が注目している「ソーシャル(コミュニティ)ビジネス」についてご紹介したいと思います。


◆ ソーシャルビジネスとは

 高齢者・障害者の介護・福祉、ホームレス対策、まちづくり、環境保護等、様々な社会的課題について、ビジネスの形でこれらの解決を図ろうとする活動で
す。このような課題は、従来であれば行政やボランティアが取り組んでいました。しかしながら、社会的課題が増加し、質的にも多様化・困難化している中、行
政の財政上の制約もあり、全ての課題に行政が解決することが難しくなってきています。こうした中で、最近、行政でもボランティアでもない新たな主体とし
て、ソーシャルビジネスの活動が注目を集めつつあります。


◆ ソーシャルビジネスの具体例①

 ソーシャルビジネスの主体は、NPO、株式会社、組合、任意団体等様々です。明確な統計はありませんが、我が国に約2万の事業者がいると言われておりま
す。具体例として、フローレンスという子育て支援を行うNPOをご紹介します。皆さんの中で、小さいお子さんが風邪を引いたために保育園に預けられず、仕
事を休まざるを得なかったご経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。保育所が全国に約3万ある中、病児保育を行う保育所は500カ所程度しかなく、男
女共同参画社会の実現のために解決すべき社会的課題です。ITベンチャーの若手経営者だった駒崎さんは、子供の看病のために会社を休んだ友人が解雇された
ことに義憤を感じ、「こんな世の中ではいけない!」と4年前にフローレンスを立ち上げました。駒崎さんのビジネスモデルは、①地域において子育て経験のあ
る方を保育スタッフとして数多く登録、②お子さんが病気になってしまった会員からの連絡を受けて、保育スタッフを派遣、③スタッフは、かかりつけの病院に
連れて行った後、自宅で看病、④代金は、月会費制(利用者の共済型モデル)とすることにより収入の安定化を図るというものです。この取組の結果、東京の江
東区と品川区からスタートした事業範囲は、高いニーズを受け現在都内11区にまで拡大しています。


◆ ソーシャルビジネスの具体例②

 もうひとつの例として、ホームレスの自立支援を行っているビッグイシューという有限会社をご紹介します。この会社は雑誌「Big
issue」を月2回発行し、ホームレス限定の販売員が路上で雑誌を販売しています。一冊200円の売り上げのうち、110円が販売員の収入となります。
若者の活字離れが進み、雑誌の路上販売文化がない日本では絶対に成功しないと言われていましたが、現在までに販売登録者は650人余りにのぼり、そのうち
50人以上のホームレスが自立することができたのです。大阪だけで展開されていた事業が現在では全国11の都府県で展開され、毎号3万部以上を売り上げて
います。


◆ ソーシャルビジネスの可能性

 従来は、こうした社会的課題の解決に取り組みたいと思った場合には、ボランティアに参加するという形しかありませんでした。我が国では一般的に、ボラン
ティアは「無償の奉仕」と認識され、財政基盤などが脆弱で、継続的な活動が難しいケースもあります。ソーシャルビジネスは、社会的課題に取り組むことを
ミッションとし、それをビジネスの形で継続的に進めていくもので、「働き方」という意味でも新しいスタイルを提示するものです。価値観が多様化・複雑化し
てきた現代社会において「働くこと」の意義が問われる中、新たな自己実現の手段となりうるものだと考えています。このような新たなビジネスが各地で生まれ
ていくことにより、地域雇用の創出、ひいては地域経済の活性化につながるという効果も期待されます。イギリスでは早くからその可能性に注目し、戦略的支援
を行った結果、4兆円の市場規模で、50万人がソーシャルビジネスに従事していると言われています。


◆ ソーシャルビジネスへの支援策

 ソーシャルビジネスが直面する最大の課題は、このような新しい「働き方」のスタイルが、社会的にまだ十分に認知されていないことです。社会的活動がボラ
ンティアでないのはおかしい、という古い認識から、地域住民の理解を得られない、金融機関等からの資金調達が困難である、という例を聞いております。
 9月からは、ソーシャルビジネスの課題とその解決策を整理するため、有識者による「ソーシャルビジネス研究会」が立ち上がりました。10月22日に開催
された第2回の会合には私も出席し、委員の熱い議論に参加してまいりました。ソーシャルビジネスは、我が国ではまだ萌芽段階で、資金調達、人材育成など多
く課題がある中、まさに今、重点的に支援する必要があります。
 現在、経済産業省において、ソーシャルビジネスを全国的に取り上げていくためのセミナーや広報などを行うべく来年度予算要求を行っています。
 ソーシャルビジネスは、個人の豊かな暮らしの実現が望まれる現代社会において、暮らしの身近なニーズに応えることのできる仕事であり、地域経済の活性化
をもたらすとともに、人々の自立や生きがい造りのための新しい仕事として、その可能性は大きく広がっています。
 私はこれまでイラクやアフガンで難民支援を行っているNGOの活動を支援して参りました。今回ソーシャルビジネスを所管する経産省の副大臣に就任したこ
とも何かの縁と感じており、こうした社会性を持った新しい分野の確立に力を注いでいきたいと考えております。ぜひ皆様にも関心を持っていただくようお願い
します。

新 藤 義 孝