第125号 なぜ憲法改正か



◆ 書籍「新憲法はこうなる」

「新憲法はこうなる―美しいこの国のかたち」(講談社)という本が評判になっています。その著者は、私と親交も深く、ずっと一緒に仕事をしてきた、自民党
政務調査会主席専門員の田村重信さんです。慶應義塾大学大学院で憲法や安全保障の講師も務めている田村さんは、憲法改正の実現に自らの人生をかけ、多くの
防衛関連法制の制定や自民党の新憲法草案起草に関わってきました。そうした立場から、憲法問題を幅広い視点から解説しています。まさに、実際の憲法起草の
現場体験から著されたもので、「生きた憲法の教科書」とも言える本です。ご関心をお持ちの方は、書店に足を運んでいただきたいと存じます。


◆ 戦後体制からの脱却=憲法改正

 1月17日の自民党大会で、安倍晋三総裁は「昨年、自民党総裁に就任し、私は『美しい国、日本』をつくると約束した。国
のかたちを示すものが憲法だ。立党の精神に立ち返り憲法改正に取り組む。まず、通常国会で各党による国民投票法案の協議が進むことを期待したい。改正教育
基本法、地方分権改革推進法、防衛庁の昇格法など国の根幹をなす法律を成立させた。この礎の上に立ち、美しい国づくりに向け前進したい」
と述べるとともに、記者団に「私たちの世代で憲法改正について取り組んでいく責任がある」と語りました。
 この世代の責任とは何を意味するのでしょうか。安倍総理も私も戦後生まれ。戦争を経験した祖父や戦後の厳しさを体験した父の世代から直接に話を聞けた世
代です。昔の苦しみを知るとともに、古き良き日本人の道徳心や公共心、家族や地域を大切にする心に直接触れることのできた世代でもあります。
 昭和17年生まれの小泉前総理は、古い日本を変える、古い自民党を壊すと言って構造改革を断行されました。あとを受けた昭和29年生まれの安倍総理
(33年生まれの私)の世代は、国の改革を家づくりに例えるならば、古い建物が壊れたあとを整地し、新しい設計図を描き、新しい家を建てることが与えられ
た役割だと思います。
 働き盛りの私たちは、新しい国づくりの作業の中心となって、これまでの良いものは残し、時代に合わないものは除き、新しい規定を加え、日本という国家の在り方、目指すべき目標を憲法として打ち立てること、これこそが私たちの世代の責任と考えております。
 憲法改正に関する世論は、一般国民を対象とした調査でも、また国会議員を対象とした調査でも、憲法改正を容認する数は、すでに八割を超えています。
 本年はいよいよ本格的な議論を始められるのでは、と大いに期待しております。


◆ 憲法九条と平和主義

 「新憲法制定」、あるいは「憲法改正」を主張すると、「戦前の軍国主義を復活させ、再び日本を破滅に陥らせる考え方だ」とか「国民を弾圧し、政府の言いなりにさせようとする企てだ」などと批判を投げかける人もいます。
 哲学者の田中美知太郎氏の「憲法に『平和』と書けば、『平和』になるのであれば、憲法に『台風は日本にはくるな』と書けばよい」という有名な言葉がありますが、現実には北朝鮮による日本人拉致事件やミサイル・核開発問題といった平和を脅かす様々な事態が起きています。
 私は、自民党の国防部会長を務め、現在の自衛隊がシビリアン・コントロールの下で、国民の安全を確保し、災害派遣や国際貢献を行っていることを実感しま
した。しかし、諸外国のように軍隊としての位置づけがないために、自衛隊が海外でPKO活動をしていて、例えば、自衛隊が英国などの外国の軍隊から助けて
もらうことができても、自衛隊が離れたところの英国軍を助けることができないのです。
 日本はGDP世界第2位ですが、世界中から石油や鉄鉱石などの原料を輸入して、それに付加価値を付け製品にして輸出しているから豊かな生活が送れるので
す。世界の国々と良好な関係を保ち、空路や海上輸送の安全が保てない限り、経済の発展はありえません。我が国は世界の平和構築のための貢献を大いに行う必
要があります。
 憲法九条の骨子を、私は次のように考えます。①日本は侵略のための戦争は永久に放棄する。②自国の防衛のためにシビリアンコントロールの下に国防軍を置く。③世界の平和構築のために必要な活動を行う。
 九条改正に対し、過度のアレルギーは捨てるべきであり、戦後60年、私たちが育ててきた民主主義と平和主義にもっと自信を持って良いのではないでしょうか。


◆ 今年こそ憲法改正を俎上に

 諸外国においては、常に自国の憲法を見直し、その時代や社会に合ったものにするため、憲法改正は、米18回、独51回、伊14回、中国3回、韓国9回等、頻繁に行われているのです。
 日本のように、制定後ただの一度も改正されたことがない憲法は、世界中を見渡し、他に類がありません。
 私が所属する自由民主党は、昭和30年の立党時より自主憲法をの制定を目標として参りました。昨年11月の立党50年記念党大会では、国民に問うべく「新憲法草案」を提示しました。
 現行憲法には、日本に進駐していた連合軍総司令部(GHQ)が英語でわずか9日間で原文を書き上げたという生い立ちから、憲法改正を望みつつも社会党や
共産党等とのイデオロギー対立により「改憲」という言葉さえ出せなかった時代を経て、現在の改正素案を発表するに至るまで、様々な遍歴があります。
 今こそ日本人の手による現代の日本人と将来の日本国のための憲法を議論するときではないでしょうか。
 私は、多くの国民が憲法改正とは何なのか、自民党草案は何を狙いとしているのかを正しく理解し、健全な改憲議論が国民の間で広く行われるようになることを、心から願っております。

新 藤 義 孝