第119号 北朝鮮の軍事力と自衛隊の能力



◆ 北朝鮮の核実験

 10月9日午前11時50分、朝鮮中央通信は、北朝鮮で地下核実験が成功裏に行われたと報じました。地震波は観測されたものの、本当に成功したか否かは
今もってわかりませんが、北朝鮮が、国際社会からの批判を覚悟してまで、核兵器を保有しようしていることは間違いありません。私は、本年7月末、世界的に
著名な研究機関であり、「ミリタリーバランス」などを発刊している英国の国際戦略問題研究所を訪れましたが、同研究所のクローニン研究部長は、「北朝鮮は
既に11個の核を保有している」と明言していました。
 北朝鮮は、抑止力として保有すると主張していますが、万一使用しようとする場合、同胞の韓国への使用は想定し難く、中国、ロシアは友好国であり、米国は1万キロも離れており、冷静に分析すれば、わが日本が標的となる可能性が最も高いと考えられます。


◆ 北朝鮮の軍事的脅威

 北朝鮮の核の問題は、外交的な手段による解決を目指すべきものですが、最悪の事態を考え、それに備え抑止するのが国の責務でしょう。では、日本にとって、具体的に、北朝鮮の何が脅威なのでしょうか。
 北朝鮮は、日本を射程に収める弾道ミサイル「ノドン」を200基以上保有していると言われており、これに核が搭載されれば最大の脅威となります。しかし
ながら、核の小型化や絶妙なタイミングでの起爆は相当に高度の技術力が要求されます。一方で北朝鮮は10万人にも及ぶ大規模な特殊部隊も保有しています。
この部隊は軍関係と朝鮮労働党関係のものがあり、韓国向けの部隊が多いと言われていますが、工作船を用いて対日工作を担当している部隊もあると考えられて
います。さらに、炭疽菌やペストといった生物兵器についても、一定の生産基盤を有しているとみられ、化学兵器についてはサリンやソマン、マスタードといっ
た化学剤を生産できる複数の施設があり、相当量の化学剤を保有していると言われています。北朝鮮は化学兵器禁止条約にも加入していません。
 核、生物、化学兵器を総称して大量破壊兵器と呼びますが、これらは、ミサイルを使用せずとも、工作船や工作員・特殊部隊を用いて運搬・使用することがで
き、これは、軍事的にも合理的なオプションと言えます。このように、工作員や特殊部隊と大量破壊兵器が結びついた場合、我が国にとって、極めて大きな脅威
となります。


◆ 自衛隊の対応能力

 それでは、これらの脅威に対して自衛隊はどの程度の対処能力を持っているのでしょうか。弾道ミサイル対処については、週刊新藤第112号で紹介したとおり、その整備が急速に進められています。
 一方、隠密裏の行動や破壊工作といった特殊な訓練を受けている工作員や特殊部隊が潜入した場合、その最終的な撃破は、こちらも特殊部隊でないと互角に対
抗できません。このため、陸上自衛隊では、平成16年3月、対テロ、対ゲリラ、対特殊部隊を任務とする初の本格的な特殊部隊である「特殊作戦群」を新編し
ています。この部隊は、自衛隊の中から選抜に選抜を重ねた要員から成り、日々、厳しい訓練を行っていると聞きます。平素は、習志野に所在しており、事あれ
ば全国的に機動運用されます。
 また、万一大量破壊兵器が使用された場合には、先ず、何がどの程度使用されたか、完全防護の部隊が、検知・測定し、危険の度合いを分析する必要がありま
す。そして、汚染した地域での救援活動、助けた人達の除染なども必要となります。これらの任務を持つ部隊を、自衛隊では、化学防護部隊と呼んでおり、全国
15カ所に所在しています。この化学防護部隊は、近年、人員・装備の面でも優先的に強化されてきましたが、量的な強化だけではなく、より現実に近い訓練も
行っています。例えば、昨年は、地方自治体、警察や消防、他の自衛隊の部隊、さらに一般の市民も交え、大宮駅で化学テロが発生したことを想定した訓練が行
われました。今年は、11月27日に川口のキュポラにある行政センターで不審物があるという設定で地元警察、消防、陸上自衛隊第32連隊及び第101化学
防護隊が出動して実施される予定ですが、このような実践的な訓練は、危機に際して非常に効果的です。

 私は、先月、国防部会長としての最後の視察先として、化学防護部隊の中枢であり化学学校が所在する大宮を訪れました。部隊の皆さんは、高い士気のもとに
国民からの期待を担っているとの緊張感を持って高度な訓練をおこなっておりました。特殊作戦群や化学防護部隊など、普段、私たちが目にすることは殆どあり
ませんが、国の平和と国民の安全のために、特殊な技能を磨き、日々努力している自衛隊があります。

新 藤 義 孝