第112号 弾道ミサイル防衛について


 北朝鮮は、7月5日早朝に6発、夕方に1発の弾道ミサイルを、日本海に向けて発射しました。事前の警告にもかかわらず発射を強行したことは、国際社会、
特に日米両国への挑戦的な行為であり、そもそも通報なしでの発射は国際法上も大きな問題があります。この弾道ミサイルが、日本海でなく、日本本土に飛来し
ていたらどうなっていたでしょうか。今回は、弾道ミサイルとその防衛について考えてみたいと思います。


◆ 弾道ミサイルの拡散

 弾道ミサイルとは、ナチスドイツが開発したV2ロケットがその原型と言われています。打ち上げ段階でロケット燃料が燃焼し、スピードと高度を得て、あとは高速で落下するだけの比較的単純な構造の兵器です。そのため、先進国でなくとも開発・配備が容易にできます。
 また、核・生物・化学兵器といった大量破壊兵器は、国際的に保有を禁止・制限する条約がありますが、弾道ミサイルには国際条約がなく、現在、世界で
47ヶ国が保有するに至っています。弾道ミサイルが脅威であるのは、弾頭に核兵器を搭載できる上、射程も長く、防御が極めて難しいことにあります。


◆ 北朝鮮の弾道ミサイル

 北朝鮮は、既に、韓国を射程に収める「スカッド」、日本を射程に収める「ノドン」を実戦配備しています。これらのミサイルは、地下の発射基地や専用のトレーラから発射できるため、その探知が極めて難しいと言われています。
 米国のある報告によれば、ノドンを既に約200発保有していると言われています。防衛庁によれば、今月発射されたミサイルは、6発がノドンかスカッドで
あり、残りの1発が、開発中の「テポドン2」と分析しています。テポドン2は、ハワイ、更に米本土を射程に収めようとするミサイルであり、米国にとって大
きな脅威となり得るものです。


◆ 開発の経緯 ― 91年の湾岸戦争

 弾道ミサイルの出現は第二次大戦末期ですが、米国で、ペトリオットPAC-3、イージス艦搭載の迎撃ミサイルSM-3といった、本格的な迎撃手段が開発され、配備が始まったのは、実は2004年とつい最近のことです。
 1991年の湾岸戦争では、イラクがイスラエルなどにスカッドを発射し、米軍のペトリオットPAC-2が迎撃しました。当時は、迎撃に成功したと言われ
ましたが、現在はその効果は極めて低かったと評価されています。PAC-2は本来、航空機を撃墜するための迎撃ミサイルです。目標に直撃するのではなく、
目標に接近した段階で自爆しその破片で航空機を撃墜する構造です。マリアナ沖海戦で米海軍が使用したVT信管と同じ発想です。
 このため、スカッドの弾頭搭載部分は破壊できなかったり、1発のスカッドを迎撃するために、PAC-2弾を7~8発も発射し、それでも効果は少なかった
と言われています。また、PAC-2では、スカッドより数倍高速のノドン(F-15戦闘機の約4倍の速さで落下)には、殆ど対応できません。


◆ 弾道ミサイル防衛システムの開発

 その後、米国では、湾岸戦争の教訓も得て、ITによる先端技術やレーダ技術の格段の進化を背景に、ノドン級の弾道ミサイルを迎撃できる手段として、
PAC-3とSM-3の開発にこぎつけました。PAC-3は地上の発射機から放たれ高度十数kmで、SM-3は海上のイージス艦から放たれ高度百km以上
の宇宙空間で、弾道ミサイルに直撃し破壊します。これは、ピストルで撃たれた弾をピストルで撃ち落とすような方式ですが、極めて高度な誘導技術とレーダ探
知技術が必要となります。
 米国では、レーガン政権下でのSDI構想以来の約20年にわたる長い年月と、10兆円を超える膨大な経費を投入して、V2出現後約60年を経て、ようやく有効な防御手段を獲得するに至った訳です。


◆ 自衛隊の能力

 日本では、2003年12月に、PAC-3とSM-3双方から成る弾道ミサイル防衛システムの導入を決定しました。PAC-3は今年度末から、SM-3
は来年度から実戦配備が始まる予定です。この配備を睨み、昨年7月には自衛隊法を改正し確実に運用できる法整備も行われました。
 防御能力が全くない現状から、有効な防御手段を持つというのは、わが国の防衛上大変大きな意義があります。防御能力の保持は、抑止の観点からも極めて有
効です。今後、200発のノドンに、そして質量ともに向上する可能性のある弾道ミサイルに有効に対処するためには、外交的手段だけではなく、弾道ミサイル
防衛システムの早急な整備と更なる能力向上、米国との連携も必要となるでしょう。


◆ 沖縄を訪問して

私はこの度、沖縄に国防関係の視察に訪れました。その際、沖縄所在の陸海空自衛隊の各司令・団長に、北朝鮮のミサイルが飛んできたらどうなるのかと尋ねた
ところ、「現在、有効に迎撃する手段はない。しかし、万々一に備え、できる限りのことは行っている」と緊張感の中にも悲痛な思いを感じる答えが返ってきま
した。その後、PAC-2の部隊も視察しましたが、将来のPAC-3の配備に向けきびきびとした士気の高い隊員を見て、勇気づけられる思いでした。
 日本の防衛にとって、今、最も重要な課題のひとつがミサイル防衛でしょう。私も、自民党国防部会長として、国民の皆さんの生命・財産を守っていくため、今後とも、この問題に最大限努力していきたいと考えています。

新 藤 義 孝