第107号 防衛庁の省への移行について


日本を除く世界各国では、防衛に関する組織は全て「省」となっています。


 政府はこの度、防衛庁を「省」に昇格させる閣議決定を行いました。自民党国防部会長として取り組んで参りました私としても、わが国の長年の懸案の解決に
大きな一歩を踏み出すことが出来、感慨深いものがあります。今号では、防衛庁の省移行問題を考えて参りたいと思います。


◆ 省移行の経緯

 防衛庁の省移行の議論には、これまでに長い経緯があります。昭和29年に防衛庁が発足した時から庁でよいのかという論議があり、昭和39年の池田内閣の時には、省移行法案が閣議決定されたこともあります。ただ、当時の政治状況から国会提出には至りませんでした。
その後、平成9年の橋本内閣の下での行革会議では賛否両論が真っ二つに分かれ、「政治の場で議論すべき課題」と結論が先送りされることとなりました。平成
13年には、自民党、保守党などにより議員立法で法案が国会に提出されましたが、後の衆議院解散に伴い廃案となっています。平成14年には、「有事法制の
成立後において、防衛庁の「省」昇格を最優先課題として取り組む」と自民・公明・保守の三党で合意をし、有事法制後の与党間の約束となっていたのです。


◆ 内閣による初の法案提出

 自民党では、今までも防衛庁の省移行を強く推進してきました。昨夏の衆議院選挙でも、政権公約として選挙戦を戦い、今年1月の党大会でも採択していま
す。このような中、与党間では、私もメンバーとなっている「安全保障に関するプロジェクト・チーム」(山崎拓座長)を実に9回も開き、与党間調整を行って
きました。また国防部会では、内閣部会と合同で、二度にわたり今国会への法案提出を決定しました。今月6日には、自民党内の法案提出手続きである政調審議
会・総務会という2つの幹部会にて、不肖私から提案並びに説明を行い、了承を受けることができました。

 政府部内で完全に調整し終え、与党間でも正式に合意した内閣提出の法案を国会に提出するのは、防衛庁創設51年目にしてなし得た大きな前進です。ようや
く昭和39年の状況を越えることができました。この法案は秋の臨時国会への継続審査手続きを行い、重要法案として必ず成立させるべく自民・公明両党とも意
向は一致しています。


◆ 背景-近年の安全保障問題

 国の防衛、すなわち国民の生命と財産を守ることは国家の最も基本的な任務です。近年、世界では米国同時多発テロを始めとするテロの問題、核兵器や弾道ミサイルの拡散、イラク問題など安全保障を取り巻く環境は厳しいものとなっています。
 日本の周辺においても、拉致問題、核開発疑惑を抱え、さらに、大規模な特殊部隊や弾道ミサイルを保持する北朝鮮の存在、毎年国防予算を大幅に伸ばし海洋進出も著しい中国の存在があります。韓国にも、先日この週刊新藤でもご紹介した竹島の問題があります。
 防衛庁・自衛隊は、わが国の防衛に備え、多くの災害派遣を行いながら、在日米軍の再編問題にも取り組んでいます。また、今この時も、イラクの地で、インド洋で、ゴラン高原で、さらには地震災害の救援のためインドネシアでも、自衛隊の隊員たちは汗を流しています。


◆ なぜ省とするのか

 このような重要な組織を「庁」と位置づけたままで本当によいのでしょうか。「庁」とは、決められた事項を実施する組織であり、「省」とは、政策の企画立案を行う組織です。
 防衛庁は内閣府の外局に過ぎず、防衛庁長官は自衛隊を動かすため、あるいは防衛に関する法律を策定するため、閣議を求めることすらできません。また予算
要求や自衛隊の人事も内閣府を経ないと行えない仕組みとなっています。現在の「国の防衛」の主任の大臣は、内閣府の長としての内閣総理大臣であり、国の防
衛は、皇室、栄典、男女共同参画、金融、沖縄振興などと並ぶ内閣府の業務のひとつに過ぎません。
 このため、防衛庁をその仕事と役割に見合った組織にするのが、今後の日本の安全保障、そして国民の生命と身体の安全を確保する上でとても重要なことと考えています。


◆ 省とするメリット

 防衛庁を省とすれば、①わが国の防衛に対する姿勢を国内外に示すことができ、②国際的にスタンダードな組織となり、各国と対等に防衛協議などを行うことができ、③防衛大臣が閣議を直接求めることができるため、ミサイルや不審船といった緊急事態に迅速に対応することができるといった実質的なメリットがあります。
 一方、省にすると、中国や韓国など近隣の国々との関係に悪い影響を及ぼすのではないかと指摘されることがありますが、これはおかしな議論です。諸外国が
他国に脅威を感じるのは、その防衛力の質や量であって、国防組織の名称ではありません。また、世界各国で、国防組織を「庁(Agency)」と位置づけて
いる国はひとつもありません。諸外国との関係で、誤ったメッセージを送ることなく、真の信頼関係を築くためにも、諸外国と同等に「省
(Ministry)」とすることは必然と考えています。

 このように、防衛庁を省にするのは、単に看板を掛け替えるのではなく、とても重要な安全保障上の政策課題です。一日も早く省移行が実現するよう、今後もこの問題に取り組んでいきたいと考えています。

新 藤 義 孝