第103号 新しい経済成長戦略が必要だ



◆ 日本経済の復活をかけて

 わが国は戦後の廃墟から見事な経済復興を遂げ、奇跡的な高度経済成長を果たしてきました。その結果、1968年には西ドイツを追い抜いてアメリカに次ぐ
世界第二位の経済大国となりました。1979年にはエズラ・ヴォーゲルというアメリカの学者が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本を書き、日本経済
の強さを誉め讃えました。私たち日本人も、経済大国であるということを誇りに思ってきました。しかし最近では、中国やインドなどアジアの国々の成長はめざ
ましく、経済の規模はどんどん大きくなっています。日本もいつかは中国やインドに追い抜かれ、世界第2位の経済大国ではなくなってしまうでしょう。
 しかし、たとえ経済の規模が追い抜かれたとしても、経済の質で負けるわけにはいきません。景気が回復しつつある今、日本経済の復活をかけて、新しい経済成長に向けた戦略を立て、実行しなくてはいけません。


◆ アジア経済圏の確立に向けて

 バブル経済の崩壊を受け、金融不良債権処理を行わなければならなかった「失われた10年」を経て、今、政府では経済構造改革の先の明るい未来を示すための「新経済成長戦略」の検討が進められています。
 この「新経済成長戦略」では、2つのことに取り組むことが重要だとされています。ひとつは、「アジアの発展に貢献し、アジアと共に成長する」ことです。
 近年、アジアの経済は急速な発展を遂げつつあり、今や、世界の成長の中心となっています。このようなアジアの成長には、実は、自動車や家電製品など我が
国からの投資が大きく貢献しています。一方、金型など重要な部品の多くが日本から輸出され、また、アジアが豊かになることで我が国からの輸出が拡大し、ア
ジアからの観光客が増えてきています。まさに、日本発の優れた製品や技術がアジアの成長をもたらすと同時に、アジアの活力を日本の活力として取り込むこと
により日本の成長が可能になっていると言えます。
 これからも、我が国が高い技術力でアジア全体の成長を引っ張っていくためには、ハイブリッド自動車やプラズマテレビ、液晶テレビなどの新しい製品や技術を次々に生み出して行くことが必要です。日本経済の強みを伸ばし、アジアと共に成長していくことが、求められています。


◆ 地域の発展と日本経済の再生

 もうひとつは、「地域の活性化」です。日本全体の景気は回復してきましたが、まだまだ苦しい地域もたくさんあります。しかし、地域の発展なくして日本経
済の再生はありませんし、豊かな暮らしも実現しません。そこで、地域の皆さんが意欲をもってアイデアを出しながら地域の発展を目指していける環境を作るこ
とが重要です。
 地域には、世界に通用する商品を作り出す元気の良い中小企業がたくさんありますし、特産品や観光地などその地域にしかない資源もたくさんあります。ま
た、介護などの福祉サービスや観光などの産業も重要です。同時に、地域では、そこに住む皆さんが生き甲斐を感じることができる場をたくさん創り出すことも
大切です。
 徳島ではお年寄りが色とりどりの葉っぱを拾い集めて、大阪などの料亭につまものとして販売するビジネスを始め大成功を収めているケースもありますし、また、最近ではNPOやボランティア活動も盛んになってきました。
 会社だけではなく、様々な形で生き甲斐や働きがいを感じることができる場を、地域の人々の手で創り出していくことが大切です。私たちのまちでも、地域ブランドとして川口食文化研究会の皆さんによるお酒造りが話題を呼んでいます。


◆ 「誇りの持てる」日本経済へ

 すでに、昨年から我が国の人口は減り始め、あと10年もすると、本格的な人口減少社会に突入します。若者の数が少なくなり、お年寄りの数が増えていきま
す。したがって、そうした人口減少社会でも、私たちや私たちの子孫が豊かに暮らしていくことができるようにするためには、まだ余力がある間に、活き活きと
した日本経済の土台をしっかりとつくっておかなければいけません。
 まさにこれからの10年は、成長への布石を打つ余力がある「残された10年」と言えます。この「残された10年」のうちに、新しい経済成長に向かって準
備をしておくことが欠かせません。景気が回復し、本格的な人口減少が始まる今こそ、新しい経済成長戦略を策定し、それに国を挙げて取り組む時期なのです。
 私は、仮に将来、経済の規模では世界第2位ではなくなったとしても、世界から頼りにされる「強い日本経済」、世界からあこがれられる「魅力ある日本経
済」、そして、なにより日本国民が「誇りの持てる日本経済」をつくっていく必要があると考えています。経済産業委員会の理事として、地場産業のまち川口の
声も参考にしながら、新しい経済成長戦略の策定に汗をかいて参りたいと存じます。

新 藤 義 孝