第104号 医療制度改革案の目指すもの



◆ 医療制度改革の国会審議

 医療制度改革関連法案が、今月18日に衆議院を通過し、参議院での審議に入っています。この改革は国民の皆さんにとって年金と並んで関心の高い分野だけに、地域の医療サービスや患者の負担がどうなるのか、具体的な姿を描きながら考えていく必要があると思います。
 野党の議論では、今回の改革により医療格差や健康格差が生じ、金持ちしか医療が受けられなくなる、病院から追い出されるといった、国民に誤解と不安を与えかねない極論が目立ちますが、今回の改革はむしろそうした事態を回避するために必要なものと私は考えています。
 日本は昭和36年から、国民の誰もが医療保険制度に加入する「国民皆保険」を採用しています。サラリーマンの方であれば、医療費の原則3割、高齢者の方
では原則1割の窓口負担で医療が受けられます。この点が4,000万人も無保険者がいるアメリカと違うところであり、日本の医療保険制度の最大の良さで
す。
 国民皆保険は、これまで皆さんが支払う保険料、税金の負担により保険財政が健全に運営されてきました。しかし高齢化による医療費の増大などにより、その財政が苦しくなっています。何とか維持できるように改革を進めなければなりません。


◆ 医療費の適正化

 今後高齢化はますます進み、医療費の増加傾向が続くことが見込まれており、このままでは保険料や窓口での負担の更なる引上げを行わざるを得なくなりま
す。そこで今回の改革は、その負担をできる限り抑えるために、医療費の値段表(診療報酬)を見直す(18年4月から、平均3.2%の引下げ)などの短期的
な対策に加えて、中長期的に医療費を抑える、医療費の適正化対策を進めることとしています。
 具体的には、第1に、糖尿病、高血圧、肺がんなど、主に生活習慣(運動、食事等)に原因がある病気の予防や進行を遅らせるための対策を重視します。生活
習慣病は、医療費の約3割、死亡者数では約6割を占めており、生活習慣の改善により予防し、薬の投与や治療を減らすことを目指す取組みを進めます。
 第2に、日本では入院期間が諸外国に比べてきわめて長く、平均的な入院期間がドイツ、フランス、イギリスでそれぞれ平均11日、17日、7日であるのに
対して、日本では平均36日と極めて長く、これは病院(療養病床)と介護施設の利用の混在が原因のひとつとなっています。介護施設に入るべき人が地域に受
け入れ施設がないため、病院への入院に頼らざるを得ない状況になっているのです。
 そこで、病院のうち、医療が必要な方が入院するベッド(療養病床)を集約し、減らす一方で、介護施設として老人保健施設や高齢者向けの住宅(ケアハウス)等への転換を進めます。転換は6年間かけて徐々にすすめ、病院から追い出すことがないように配慮がなされます。


◆ 新しい高齢者医療制度

 この他、高齢者の医療制度を独立した制度として見直します。現在の制度(老人保健制度)では、高齢者医療のために現役世代の保険料の一部が充てられてい
ますが、現役世代の保険料のどの程度が充てられているか、現役世代にはわからない仕組みになっています。改正により、加入している制度の保険料と高齢者を
支援するための保険料を分ける仕組みとし、その際に、高齢者の方も、1割程度の保険料を納めていただくことになります。また、現役世代との負担の公平を図
るため、療養病床での食費や居住費について負担の見直しも図らなければなりません。


◆ 小児・産科医療の確保

 また、地域で受ける医療サービスについての見直しを行います。現在の医療制度はさまざまな問題を抱えています。①どの医療機関に専門医がいるか、どこを
選択したらよいかなどの疑問に応えることができる医療情報が不足している、②急性期から慢性期まで、地域で切れ目なく医療サービスが受けられるのか、③地
域で不足している小児科、産科などどのように確保していくのか、など様々です。今回の改革で、都道府県が作成する医療計画において具体的な医療連携体制を
つくるともに、特に地域的に偏在している小児科、産科などの医療について、できる限り集約化して、救急体制などにしっかり対応するための見直しを行わなく
てはなりません。


◆ 医療は地域つくりの発想で

 医療制度は、負担面のみが強調されがちですが、大切なことは良質なサービスを安心して身近で受けられるか、という点にあります。その意味で、地域の医師会等医療関係団体や、行政との連携が極めて重要となり、信頼できる医療体制を持つことは、まちの大きな魅力となります。
 住みよい安心のまちづくりに向けて、私も医療制度改革に取り組んで参りたいと思います。

新 藤 義 孝