第98号 国会はまわる ~法案が成立するまで


 今号では、ご存じの方もおられるかもしれませんが、国会で法案が成立するまでの過程に触れたいと思います。


◆ 国会での法案成立過程

 私たちの暮らしに密接に関係する法律が成立するには、多くの厳正な手続きが必要です。
 法案は、内閣または国会議員から議長に提出されます。議長は本会議を開き、そこで法案の趣旨説明と質疑がおこなわれたあと、関係の委員会に付託されま
す。委員会が開かれると、大臣より再び法案の趣旨説明があり、ここで本格的な審議となります。委員会で審議が終了すると採決が行われ、委員長が可否を宣言
します。
 その後また本会議が招集され、委員長から委員会の審議結果が報告され、その結果に対し各党からの討論を行ったあとに、議長により採決が行われてその可否が決まるのです。
 こうして衆議院を通過した法案は、参議院に送られ、また同じ段取りで審議が行われます。
 このように国会での法案審議は非常に手間と時間をかけて行われる厳正な手続きの場でもあるのです。
 わが国の国会は会期制がとられており、会期末までに成立しない法案は原則として廃案となってしまいます。そのため、与野党間で様々な駆け引きがあり、これを担当するのが国会対策委員会です。
 国会内では議員にしか通じない独特の言い回しがあります。そうした用語の一部をご紹介しましょう。


◆ 「つるしをおろす」?

 実際にはおこなわないのに本会議で法案について趣旨説明、質疑を要求することを「つるし」といいます。「つるし」になった法案は、委員会で審議ができず
宙ぶらりん状態になってしまいます。これを取り下げて法案の審議ができる状態にするのを「つるしをおろす」と言います。どの法案をどういう順序で審議する
のかとか、複数の法案を同時に委員会に付託するのかは、議院運営委員会において決定します。野党は「つるし」を使いながら審議を引きのばしたり、なるべく
有利な条件を引き出そうとしたりします。


◆ 「お経読み」?

 国会における法案の提案理由の朗読等、文章を読み上げるだけの説明を「お経読み」と呼びます。これは、法案の審議を始めるにあたり、大臣がその提案理由
等を読み上げる姿を、僧侶の経文になぞらえたものです。確かに平均3分間程の抑揚のない声を聞いていると、うまいことを言うなと思わずうなずけるものがあ
ります。


◆ 「堂々巡り」?

 先に進まないということではありません。本会議で予算等の重要案件の採決や選挙において、自分の名を呼ばれた国会議員が演壇に登り順々に投票する記名投
票のことを、俗に「堂々巡り」と呼んでいます。賛成は白票を、反対は青票を持参して演壇に置かれた投票箱に投入する方法です。


◆ 「法案を上げる」?

 委員会で法案を採決することを上がると呼んでいます。今日は何か上がるのかと聞かれ、思わず天ぷら屋さんを想像してしまうような言葉ですが、ひとつには
委員会の審議を経て、本会議に上がる法案という意味を持っています。「お経読み」から「上がり」までが、委員会審議の基本的な流れです。


◆ 委員長のマイクを奪え

 国会は法案を審議する場であるとともに、厳粛に手続きを進行させる場でもあります。委員会では委員長が、本会議では議長が開会を宣言しないと議事は始まりませんし、採決をとって可決したことを宣言しないと法案は成立しません。
 そのため、採決を成立させないために、委員長を委員室に入れなかったり、委員長のマイクを奪うなど、物理的に議事運営を阻止する手段が用いられることも
あります。本会議の場合は、議長を本会議場に入れなかったり、他の議題を連発して議事に入れないようにする手段もとられたりします。
 一方で、法案を成立させたい与党側は、与党単独で採決日を決めて採決を行う強行採決という手段にでることもあります。
 近年は少なくなってきたとはいえ、与野党の話し合いが決裂したギリギリのところでは野党議員が委員長席に押し寄せたりすることもあります。委員長によっては、「この日ばかりは安い背広にしといたよ」と、後で何度か聞かされたものです。


◆ いよいよ加速する法案審議

 3月27日の参議院本会議で予算審議が終了し、平成19年度予算が年度内に成立しました。これにより、今国会は6月18日の会期末に向けて、残る約100本の法案審議が佳境に入ります。
 私も経済産業委員会の理事として、委員会の運営にあたっております。皆様の暮らしに直結する法案の審議が充実したものになるよう心がけて参ります。

新 藤 義 孝