第55・56号 新たな名産品 生まれる! わが街の地酒

この春にデビューした、川口市の地酒「初扇」。
その軽やかな飲み口は万人に受け入れられ、そして米の旨みをしっかりと伝えるその実力は日本酒通をも唸らす。そんなお酒が誕生しました。
     蔵 元 : 騎西町・ 釜 屋 0480-73-1234

 週刊新藤をご愛読下さっている方から取材の依頼がありました。自分たちのつくった地酒をぜひ取り上げて欲しい、というのです。川口に地酒があるということをその時始めて知った私は大いに関心を抱き、今月始めに早速会いに行きました。


◆ 川口食文化研究会の皆さんの活動 ◆

 この地酒を企画したのは、「川口食文化研究会」(会長:渡辺満さん)の皆さん。話を
うと、会員の方たちは食いしん坊の集まりで、会の設立当初は人づてに聞いた市内の美味しいお店をひたすら食べ歩き続けたとのこと。そうするうちに、大手外
食チェーンの陰に埋もれがちだが、安くて美味しい料理を出す昔ながらの個人経営店が、この市内にも数多くあることがわかってきました。
 「今の若い人たちは、ファーストフードやファミリーレストランなどの規格化された味に慣れきっている。食は地域文化であり、それが画一化してしまうのは
何とも残念なことだ」と、隠れた名店をリストにして発表できるほどに活動を続けておりました。やがて会の若手の方たちを中心に「この街の風土に適した、私
たちの街の特産と呼べるお酒を自分たちでつくってみたい」ということになり、お酒の企画をすることになったのです。


◆ 日本の文化- 米と酒 ◆

 「古い文明は必ず麗しい酒を持つ」と言われ、世界の民族は独自の酒とともに生活文化を育ててきました。豊かな四季をもち稲穂が実るわが国では、日本人の主食である米を原料とした日本酒が生まれました。
 繊細な日本の風土と日本人の感性によって育まれ、発達してきた日本酒は、花を見ながら月を愛でながら、旬の食材や季節の料理に様々に合わせることができ、日本人の暮らしに深く根付いています。
 日本酒には、全国各地にそれぞれの地域の特色をもつものが数多くあります。食文化研究会の皆さんは、自分たちの好む、川口に合った酒をつくってみたいと考えました。


◆「関東灘」- 埼玉県の酒づくり ◆

 意外に思われるかもしれませんが、埼玉は古くから酒造りの盛んな県です。醸造に適した利根川・荒川の豊富な二大水系と、良質な埼玉産の酒造好適米が見事
に融合して銘酒を生んでいます。「灘にも負けない関東灘」という異名を持つこの地には、現在も36もの蔵元があります。埼玉の清酒は関東一の生産量を誇
り、品評会などでは多数の賞を受賞しているのです。
 利根川べりの北埼玉郡は埼玉有数の米どころであり、有名な蔵元もあります。食文化研究会の皆さんは、その内のひとつ、騎西町の蔵元に着目したのです。


◆ 市民がつくった市民の酒 「初扇」◆

 まず考えたのは、食文化を通じて広く川口を理解してもらいたいということでした。「旅に出たら、その土地の料理を食べ、その土地の酒を飲め」という言葉があります。地域に根ざした飲食物は、その土地の特色をよく表しているのです。
 誇りを持って「私たちの街の酒」だと言えるよう、騎西町の蔵元さんと検討を重ねた結果、出来上がった酒がこの「初扇」です。そのコンセプトは、「毎日楽しめる。決して飲み飽きず、和洋問わず様々な食卓を和やかにしてくれる酒」。「川口の街とこの酒が、扇のように広がって欲しい」という願いを込めて「初扇」と名付けました。
 さて、一通りの説明を聞いていた私は、待ちきれぬ思いで試飲しました。食文化研究会の皆さんがニコニコしながら見まもる中、私は「初扇」を口に含んでみ
ました。すると…「旨い!」素直にそう叫びました。わが町の酒「初扇」は、喉ごしがよくとてもフルーティで、常温でもキレのよい、実に洒落たお酒に仕上
がっていました。これならお客様に出しても、宴会などでも、もってこいだと思います。また、一升で1,850円と、価格も低く設定されています。


◆ 川口ブランドの創出を ◆

 川口で生まれ育った私は、産業政策に重点を置いて活動して参りました。商・工業、情報通信産業など、各種の国の制度をこの街にも導入してきました。ま
た、通産大臣には鋳物や機械工場を、農林大臣には植木産業を視察していただくなど、わが街の産業を政府内に強くアピールさせていただいております。
 しかし、昨今の厳しい経済情勢下において、地場産業の街と言われたこの川口も、地域に根付いた個人商店が徐々に姿を消していき、大手チェーン店やコンビ
ニエンスストア、ディスカウントなどに代表されるような規格化された大規模店舗が増大しました。消費者にとって利便性は高まったかもしれませんが、街の商
店の誇りや買い物を通じてのコミュニティは失われつつあるのではないでしょうか。
 今回の動きは小さな一歩かもしれませんが、川口のブランド名を冠した新たな商品を生み出したことは、それに続く新たな産業の輩出への期待も含め、その意義において非常に画期的なことです。

 川口食文化研究会では、今後、「初扇」に使う米を一からつくる田植え体験、利き酒大会などのイベントも考えているそうです。
 私はこの「初扇」を、商工会議所や川口観光協会などに紹介し、市民の皆さんに広く知ってもらいたい、何よりも試飲してもらいたいと思っています。川口の
街の中だけでなく、県外から全国へと販路が広がったならば…と夢見てもいます。街のやる気と元気を促す「初扇」の挑戦を、私は応援していきたいと思いま
す。

新 藤 義 孝