第25号 今こそ、犯罪被害者の救済に立ち上がろう!

「新
藤暮らしの相談室」に、ある方からメールを通じ、とてもつらく悲しいご相談を頂戴しました。私は早速、その送り主である川口市在住のAさんのご自宅に伺
い、Aさんの受けた犯罪被害とその後のさまざまなご苦労をお聞きしました。そこで今号では、犯罪の凶悪化と急増が叫ばれる現代社会において、決して他人事
ではない「犯罪被害者の救済」について、皆さまと共に考えて参りたいと思います。

県議会へ犯罪被害者の現状を率直に訴えました。
議員の方々は協力を約束してくれました。


昨年のある日の深夜、当時37,8歳の引きこもりの男が自分の母を殺害した後、隣家に侵入し、一階で寝ていたAさんのお母さんを殺害しました。ところが加
害者の男性は、精神疾患による通院歴があり、わずか2ヶ月間の「司法精神鑑定」の結果「心神喪失」、つまり精神障害のため自分の行動をコントロール出来な
い状態にあったという鑑定医の診断が下され、刑法39条の適用によって「不起訴」、つまり「罪を問われない」ことになってしまったのです。

母を一方的に殺害されたにもかかわらず、被害者のAさんは、罪を訴えられず、民事では相手が精神障害者ということで金銭補償もほとんど受けられず、泣き寝
入り同然となってしまいました。事件後は近所との接触を避け、一人で苦しんでいたそうです。そもそも弁護士を依頼しようにも、刑事事件を取り扱ってくれる
弁護士は少なく、しかも犯人が精神に障害を持っているということで、ほとんどが門前払い同然の扱いを受けてしまったそうです。困り果てた末に、さいたま市
にある「犯罪被害者相談センター」に行って、やっと弁護士を紹介してもらったという有様だったのです。

しかも、犯罪加害者には国費で国選弁護人がつくことは皆様もご存知だと思いますが、私もうかつだったのですが、犯罪被害者にはその制度がないのです。した
がって、Aさんは事件後に民事で訴えた隣家の立ち退きに係る弁護士料や裁判の費用等、すべてを自己負担しなければならなかったのです。

Aさんからその他の犯罪被害者のケースを教えていただいたのですが、
・ 一人息子を行きずりで殺された母親が、身寄りが無いため老人ホームに入居しようとしたが、保証人がおらず拒絶されてしまったこと。
・ 通り魔に暴行を加えられ植物人間になってしまったが、加害者が心神喪失状態ということで不起訴になり、被害者の高額な治療費は家族で負担していること。
など、犯罪被害者の補償や支援措置があまりに整備されていないことに私は愕然といたしました。

さらに皆様も鮮烈に記憶に残っているかと思いますが、平成11年、長男が通う同じ幼稚園の母親によって、妹の当時2歳になる幼女が殺害される事件がありま
した。加害者には懲役15年の実刑判決がおり、その後遺族が起こした民事訴訟により6100万円の賠償金を被害者家族に支払うよう判決が下りたのですが、
なんと加害者側は未だに一円の支払いも行っていないのです。

では、ここで国の統計(2002年度)を見てみましょう。加害者が逮捕されてから刑務所や少年院などで服役するための食費や医療費、光熱費、さらには国選
弁護報酬などを合計すると466億6017万2000円もの税金が加害者の為に支出されているのです。一方、犯罪被害者やその家族に対しては、医療費、介
護費、生活費、裁判の費用、弁護士料等、すべてが「自己負担」です。唯一「犯罪被害者等給付金」という制度がありますが、その総額は11億1302万円
で、加害者への国費支出と比べると、なんと約455億円もの差があるのです。

また、被害者の司法参加にしても、「刑事裁判は社会秩序維持を守るためにあり、被害者のためにあるのではない」という最高裁判所の判断(1990年)によって、被害者は捜査や裁判に一切関与できず、すべて蚊帳の外に置かれてしまっている状態です。

世界に目を向ければ、例えばフランスやドイツでは被害者の訴追権など司法への参加が認められており、また、アメリカやイギリスでは、賠償命令制度が確立されていて、被害者に損害回復の権利をしっかりと与えているのです。


回お話を伺ったAさんは、自らの苦しみを乗り越え、同じく苦しんでいる人たちと助け合って生きたい、と「全国犯罪被害者の会(あすの会)」に入会しまし
た。この会の目的は犯罪被害者のおかれている理不尽で悲惨な現実を訴え、犯罪被害者の権利、被害回復制度の確立を、国、社会に働きかけていくことです。

私がAさんから今回受けた相談は、「あすの会」は全国の都道府県議会に「わが国における犯罪被害者の権利と被害回復制度の確立のための意見書」を提出し、
東京・神奈川など主要自治体に採択されている。埼玉県議会は未だ採択されておらず、働きかけを行いたいので支援して欲しい。・・・ということだったので
す。

私は早速、仲間の川口市選出の奥ノ木信夫・田中干裕両県議会議員に協力を依頼し、二人は県議会内に話を持ち掛けてくれました。去る9月15日にはAさんや
「あすの会」関係者と一緒に、大石忠之自由民主党埼玉県議団団長にお会いし、井上直子埼玉県議会議長宛に請願書を提出してまいりました。団長さんには、現
在開会中の9月県会において是非とも採択をして欲しいとお願いをいたしました。

奥ノ木・田中両県議がすぐに協力してくれました。

国会では、自由民主党がプロジェクトチームを結成し、「犯罪被害者等基本法案(仮称)」がまとめられました。中心となった塩崎恭久基本法制小委員長や上川
陽子副委員長は、NPO税制や外務省改革提言を行った私の大変親しい仲間であり、国会内で一緒に作業出来ないことは真に残念ですが、今後連絡を密にとって
まいります。

この法案は、秋の臨時国会に議員立法で提出を目指しており、わが国の犯罪被害者の権利の確立は大きな節目を迎えております。近年のわが国の犯罪状況は、凶
悪化と低年齢化が進み、心神喪失者による通り魔殺人や覚せい剤使用による事件や外国人による犯罪、さらには幼児虐待や誘拐事件など、悪質で多様化しており
ます。私たちもいつ巻き込まれるかわからず、他人事と言ってはいられない状況だと思います。

そしてこの問題は、何よりも政治が率先して行動すべき最たるものです。今後の経過ならびに結果は「週刊新藤」を通じ皆様にご報告させていただきます。また
「新藤暮らしの相談室」がお役に立つことが出来、とても光栄です。皆様と一緒にこれからも地に足をつけて活動してまいります。

新 藤 義 孝